テストステロンを増やすための最も確実な第一歩は、加齢・肥満・睡眠不足・ストレスという4つの低下要因を取り除くことです。運動・減量・良質な睡眠で数値は改善が期待できますが、疲労感・意欲低下・性欲減退・EDなどの症状が続く場合は「男性更年期(LOH)」として検査・治療の対象になります。本記事では、テストステロンが減る仕組み、AMSセルフチェック、基準値と受診の目安、補充療法(TRT)、そしてフレイル対策までを、医師監修で解説します。
テストステロンはなぜ加齢で減るのか?(男性更年期・LOHの正体)
男性のテストステロンは、精巣のライディッヒ細胞でつくられる主要な男性ホルモンです。米国の大規模追跡研究(Baltimore Longitudinal Study of Aging)では、テストステロンは加齢とともに年およそ1%ずつ低下し、published in J Clin Endocrinol Metab のデータでは、基準を下回る「低テストステロン」の割合は60代で約20%、70代で約30%、80代で約50%に達すると報告されています。
つまり、低下そのものは加齢に伴う自然な変化です。ただし、その速度と症状の出方には個人差があります。近年の総説(published in Front Endocrinol)は、加齢に伴う慢性的な軽度炎症(インフラメイジング)とライディッヒ細胞の老化が、テストステロン産生の低下に関わると整理しています。
女性の閉経のような急激な変化ではなく、数年かけてゆるやかに進むのが男性更年期の特徴です。そのため「年齢のせい」と見過ごされやすく、疲れ・気力の低下・性機能の変化が重なって初めて気づくケースが多くみられます。

男性更年期セルフチェック(AMSスコア表)
下の表は、AMSスコアの17項目を心・体・性の3領域に整理したものです。各症状の程度を「なし=1/軽い=2/中くらい=3/強い=4/非常に強い=5」で採点し、合計点を出してみてください。
| 領域 | 代表的な症状(各項目を1〜5点で採点) |
|---|---|
| 身体の症状 | 全身の体調不良/関節・筋肉の痛み/ひどい発汗/睡眠の問題/疲れやすい・眠気/筋力の低下 |
| 心の症状 | いらいらする/神経質・落ち着かない/不安感/憂うつな気分/「燃え尽きた・どん底」という感覚 |
| 性の症状 | 体力・気力のピークを過ぎた感覚/ひげの伸びが遅い/性機能(勃起)の衰え/朝立ちの減少/性欲の低下 |
AMSは症状の強さを見る目安で、点数が高い=病気ではありません。中等度以上、または複数の症状が数か月続く場合は、血液検査(遊離テストステロン)と合わせて医師が総合的に判断します。
テストステロンを増やす4つの生活習慣(運動・減量・睡眠・食事)
薬に頼る前に、まず土台となる生活習慣を整えることが重要です。ここには明確な医学的根拠があります。
1. 筋力トレーニング
大きな筋肉(脚・背中・胸)を使うレジスタンス運動は、テストステロン分泌を刺激します。週2〜3回を目安に、無理のない範囲で継続することが大切です。過度な有酸素運動やオーバートレーニングは逆効果になり得るため、休養も計画に含めます。
2. 減量(内臓脂肪を減らす)
肥満はテストステロンを下げる大きな要因です。脂肪組織では男性ホルモンが女性ホルモンへ変換されやすくなるためです。実際、肥満男性を対象とした研究(published in Surg Obes Relat Dis)では、減量に成功するほど総テストステロンが上昇し、低下していたホルモン状態が改善したと報告されています。
3. 良質な睡眠
睡眠不足は即座にテストステロンを下げます。健康な若い男性で1週間睡眠を5時間に制限した試験(published in JAMA)では、日中のテストステロンが10〜15%低下しました。まずは7時間前後の睡眠を確保することが、手軽で効果の高い対策です。
4. たんぱく質中心の食事
筋肉とホルモンの材料となるたんぱく質(肉・魚・卵・大豆)を十分にとり、極端な糖質制限や過度なダイエットは避けます。亜鉛やビタミンDなどの不足も、必要に応じて食事で補います。

フリーテストステロンの基準値と検査
男性更年期(LOH)の診断は、症状だけでは決められません。血液検査でテストステロン値を測り、症状と組み合わせて評価します。
テストステロン値は、年齢や採血のタイミング(朝・夕)、体調やストレスなど多くの要素で変動します。ひとつの数字で機械的に線引きできるものではありません。そのうえで、目安をシンプルに示すと次のとおりです。
日本泌尿器科学会の『LOH症候群診療の手引き(2022年版)』では、加齢の影響を受けやすい「遊離(フリー)テストステロン」を指標に用います。遊離テストステロンが7.5 pg/mL未満を低値と判断し、7.5 pg/mL以上は診断上の低値ではないとされます。最終的な診断は、この検査値と症状を合わせて医師が総合的に判断します。

テストステロン補充療法(TRT)の効果とリスク
生活習慣の改善で不十分で、症状と検査値の両方が当てはまる場合には、テストステロン補充療法(TRT)が検討されます。効果とリスクの両面を、最新の臨床試験で確認しておきましょう。
効果の詳細は、published in N Engl J Med を参照ください。ここで重要なのは、TRTは「万能の若返り薬」ではなく、性機能・気分など一部の症状に対して効果が期待できる治療だという点です。
安全性については、2023年に大規模な検証が行われました。心血管リスクの高い低テストステロン男性5,246人を対象とした試験(TRAVERSE、published in N Engl J Med)では、TRTは主要な心血管イベント(心筋梗塞・脳卒中・心血管死)についてプラセボに対し非劣性でした。ただし、心房細動・急性腎障害・肺塞栓の頻度はTRT群でやや高く、適応の見極めと定期的なモニタリングが必要であることを示しています。
男性更年期とED・活力低下(症状で分ける次の一歩)
テストステロン低下の症状は幅広く、対処の入り口も一つではありません。ご自身の一番の悩みに合わせて、次の一歩を選んでください。勃起力の低下・中折れなどED(勃起不全)が主な悩みであれば、EDは加齢による血管・神経の変化とも深く関わり、テストステロンだけの問題ではないことが少なくありません。
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テストステロン低下とフレイル ― 筋力の衰えと「未病」対策
テストステロンの低下は、性機能だけの問題ではありません。テストステロンは筋肉の合成に関わるため、低下すると筋肉量と筋力が落ちやすくなります。実際、加齢男性を対象とした総説(published in J Clin Med)は、テストステロンの低下がサルコペニア(筋肉減少症)を介してフレイルと関連することを示しています。また、テストステロン欠乏の系統的レビュー(published in J Sex Med)でも、低テストステロンはサルコペニア・移動能力の低下・フレイルと関連すると報告されています。
フレイルは、健康な状態と要介護状態の中間にあたる「未病」の段階です。筋力・活力の低下を「年齢のせい」と放置せず、運動・栄養・睡眠、そして必要に応じた医療的アプローチで、早い段階から体づくりに取り組む意義があります。
セルグランクリニックでは、こうしたフレイル・未病対策・全身のエイジングケアの選択肢として、厚生労働省に届け出た再生医療等提供計画に基づき、患者さんご自身の脂肪由来幹細胞(ADSC)を用いた再生医療を提供しています。運動・栄養・(適応があればTRTなどの)標準治療と組み合わせ、体全体のコンディションを整えていく枠組みでご相談いただけます。
フレイル・未病対策の幹細胞治療(自家ADSC)を見る 詳しく見る → エクソソーム治療(エイジングケア)を見る 詳しく見る → NMN(NAD+)点滴・若返り治療の全体像 詳しく見る →再生医療とテストステロン:いまわかっていること
前章のとおり、フレイルや未病・エイジングケアの枠組みでは再生医療が選択肢になります。一方で、「幹細胞でテストステロン値そのものを上げる」という点に限れば、得られている知見の多くは動物や培養細胞を用いた前臨床研究で、ヒトでの有効性を示す臨床データはまだありません。
たとえば、老化モデルのラットに脂肪由来幹細胞(ADSC)を投与した研究(published in J Cell Physiol)では、低下していた血清テストステロンの回復が報告されていますが、これは動物実験であり、作用の中心は細胞そのものより分泌因子(パラクライン効果)と考えられています。また、精巣に残る「幹ライディッヒ細胞」を活用する戦略の総説(published in Endocr Rev)も、動物での有望性を示す一方、ヒトでの検証はこれからだと明記しています。

よくある質問(FAQ)
個人差がありますが、多くは40代以降にゆるやかに始まります。テストステロンは20〜30代をピークに年約1%ずつ低下し、症状は50〜60代で顕在化しやすくなります。年齢よりも、症状と検査値で判断します。
Q. テストステロンは自分で増やせますか?生活習慣の改善で一定の効果が期待できます。特に減量と睡眠改善は研究で裏づけがあります。ただし症状が強く検査値も低い場合は、自己流だけで解決しようとせず、医療機関での評価をおすすめします。
Q. テストステロン補充療法(TRT)の副作用は?大規模試験では主要な心血管イベントはプラセボと同等でしたが、心房細動・急性腎障害・肺塞栓がやや増える可能性が示されています。前立腺の状態などの確認と、治療中の定期モニタリングが必要です。
Q. 男性更年期は何科を受診すればいいですか?泌尿器科、またはメンズヘルスを扱う医療機関が専門です。血液検査(遊離テストステロンなど)と症状評価を行います。
Q. テストステロンの低下は将来のフレイルと関係しますか?関連が報告されています。低テストステロンは筋肉量・筋力の低下(サルコペニア)を介してフレイルと結びつきやすく、未病の段階から運動・栄養・睡眠で対策する意義があります。
まとめ
テストステロンを増やす近道は、特別な薬ではなく、減量・睡眠・運動・食事という生活習慣の土台を整えることです。そのうえで、疲労・意欲低下・性欲減退・EDなどの症状が続き、検査値も低ければ、男性更年期(LOH)として補充療法(TRT)を含む治療を検討できます。さらに、筋力低下やフレイルが気になる場合は、未病対策・エイジングケアという枠組みで再生医療も選択肢になります。大切なのは「年齢のせい」で片づけず、まず正しく評価すること。気になる症状があれば、一度専門の医療機関にご相談ください。
監修:若林 雄一(医学博士・MD, PhD/テストステロン治療認定医〔日本メンズヘルス医学会〕)|最終確認日:2026-07-28
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※ 一部の再生医療に関する知見は動物・前臨床研究に基づくもので、ヒトでの有効性は確立していません。フレイル・未病対策としての再生医療は、厚生労働省への再生医療等提供計画に基づき提供しています。本記事は情報提供を目的とし、個別の診断・治療方針は医師の診察に基づきます。
最終更新日:2026.07.30