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COLUMN

2025.02.25
コラム

「エクソソームなどの細胞外小胞(EV)ベース治療の安全性と有効性に関するシステマティックレビューとメタ分析」

エクソソームなどの細胞外小胞(EV)は、細胞間コミュニケーションの重要な担い手として近年注目されています。EVは免疫調節作用や生物学的バリアの透過性など、治療への応用が期待される特性を持っています。今回は、人間においてのEV治療の安全性と有効性に関する臨床試験を系統的に検索した論文について解説したいと思います。報告をまとめたもので図解も少ないですので、かなり難しい内容になるかと思います。ご興味をもって読んでいただけると幸いです。

[参考にした論文] A systematic review and meta-analysis of clinical trials assessing safety and efficacy of human extracellular vesicle-based therapy. Mats Van Delen et al. Journal of Extracellular Vesicles. 2024;13: Issue 7.

 

方法

2023年末までの公表論文を対象も医学文献データベースから関連する臨床試験を系統的に検索。

21件の臨床試験(計335人の患者)を分析対象として選定

 

主な結果

安全性

SAE (Serious Adverse Event: 重篤な有害事象)とAE (Adverse Event: 有害事象)について

 

  1. SAEの分析結果
    ・全体発生率:6件/335名、0.7% (95%信頼区間: 0.1-5.2%)
    ・報告されたSAEの内訳:

     ・肝機能障害:2件
    ・発熱:1件
    ・嘔吐:1件
    ・急性喘息発作:1件
    ・その他:1件
    この報告は、非小細胞肺がんと重症コロナでの研究のみで報告されているのみで、他の研究では報告はされていません。症状も一時的で改善されています。
  2. AEの分析結果
    ・全体発生率:4.4% (95%信頼区間: 0.7-22.2%)
    この報告は、非小細胞肺がん、悪性胸水、重症コロナでの研究で報告されているものがほとんどです。
  3. 投与方法による比較 自家(自分の組織由来) vs 同種(他者由来)EVの安全性:
    ・SAE: 有意差なし
    ・自家:2.0% (95%CI: 0.3-3.9%)
    ・同種:0.5% (95%CI: 0.1-3.6%)
    ・AE: 自家でやや高い発生率
    ・自家:34.0% (95%CI: 14.4-61.2%)
    ・同種:0.9% (95%CI: 0.0-18.0%)

  4. 工学的修飾による比較 修飾 vs 非修飾EVの安全性:
    SAE: 有意差なし
    修飾:3.2% (95%CI: 0.9-11.2%)
    非修飾:0.0% (95%CI: 0.0-100.0%)
    AE: 修飾EVでより高い発生率
    修飾:46.8% (95%CI: 23.8-71.3%)
    ・非修飾:1.5% (95%CI: 0.1-14.8%)
  5. 観察期間:期間の多様性
    最短:5-7日間(急性期疾患)
    最長:1-2年(慢性疾患、がん)
    中央値:約1-3ヶ月
結論

総じてEV治療は安全性が高く、重篤な有害事象の発生率は低いことが示されています。しかも元の疾患が肺がんなど重篤なもので起こっているのがほとんどです。結果は短期的な評価で、長期的な安全性評価に関してはさらなる研究が必要です。

 

有効性

335人中168人で臨床症状の改善を確認

がん関連疾患
  1. NSCLC(Non-Small Cell Lung Cancer:非小細胞肺がん)
    ・Morse et al. (2005): 9名
    ・DTH(Delayed Type Hypersensitivity:遅延型過敏反応): 3名で陽性
    ・MAGE(Melanoma Antigen Gene:メラノーマ抗原遺伝子)特異的細胞: 1名で増加
    ・NK(Natural Killer:ナチュラルキラー)細胞活性: 2名で上昇
    ・Besse et al. (2015): 22名
    ・PFS(Progression Free Survival:無増悪生存期間)
    ・4ヶ月PFS達成: 7名 (32%)
    ・全体のPFS中央値: 2.2ヶ月
  2. MPE(Malignant Pleural Effusion:悪性胸水)
    Dong et al. (2022): 40名
    ・CR(Complete Response:完全奏効): 10名
    ・PR(Partial Response:部分奏効): 23名
     ・SD(Stable Disease:安定): 1名
    ORR(Objective Response Rate:客観的奏効率): 82.5%
  3. 胆管がん
    Gao et al. (2020): 20名
    5名 (25%) で胆管閉塞の改善

 

COVID-19関連疾患
  1. 重症COVID-19(Coronavirus Disease 2019)
    ・Zhu et al. (2022): 7名
    ・CT(Computed Tomography:コンピュータ断層撮影)で全例の改善
    ・CRP(C-Reactive Protein:C反応性タンパク): 6/7名で低下
    ・IL-6(Interleukin-6:インターロイキン6): 5/7名で低下

 

その他の疾患
  1. CKD(Chronic Kidney Disease:慢性腎臓病)
    Nassar et al. (2016): 20名
    eGFR(estimated Glomerular Filtration Rate:推定糸球体濾過量)の改善
    Cr(Creatinine:クレアチニン)値の低下
  2. GVHD(Graft Versus Host Disease:移植片対宿主病)関連
    ・Zhou et al. (2022): 14名
    ・OSDI(Ocular Surface Disease Index:眼表面疾患指数)の改善
  3. IBD(Inflammatory Bowel Disease:炎症性腸疾患)関連瘻孔
    Nazari et al. (2022): 5名
    完全治癒: 3名
    臨床的改善: 1名
  4. CVU(Chronic Venous Ulcers:慢性静脈潰瘍)
    Gibello et al. (2023): 4名
    潰瘍面積の減少
    組織学的改善の確認
結論

がん、COVID-19、慢性疾患など幅広い疾患で有望な結果が報告されています。特に免疫調節効果が高く、多くの症例で確認されました。組織修復効果も高く、局所投与で顕著でした。抗炎症効果も高く、特にCOVID-19症例で顕著でした。

 

おわりに

安全性について:

これまでの臨床試験では、重篤な副作用は極めて少なく、比較的安全な治療法であることが示されています。報告された副作用の多くは軽度で一時的なものでした

治療効果について:

様々な病気で promising(有望)な治療効果が報告されています。

 

ご留意いただきたいこと

治療を検討される場合は、担当医と十分に相談し、 ご自身の状態に最適な治療法を選択することが重要です。治療効果は個人差があることをご理解ください。

これらの研究結果は、EVベース治療が将来の医療において重要な選択肢となる可能性を示しています。ただし、まだ発展途上の治療法であることを踏まえ、医療従事者と十分な相談のもと、治療を検討していただくことが大切です。

著者紹介

若林雄一

若林 雄一

セルグランクリニック 院長

医学博士
アメリカ再生医療学会専門医
放射線診断専門医
核医学専門医

【略歴】
アメリカ再生医療学会認定専門医資格を有し、神戸大学病院やアメリカ国立衛生研究所(NIH)で培った経験をもとに、患者様一人ひとりのニーズに応じたオーダーメイド医療を提供しています。

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