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COLUMN

2025.02.25
コラム

幹細胞治療の副作用の観点からみた安全性

幹細胞治療は、再生医療分野で注目を集めている最先端の治療法です。特に間葉系幹細胞(MSC)は、その多様な治療効果が期待され、変形性関節症や慢性疼痛、糖尿病といったものから脳性麻痺やアルツハイマー病やパーキンソン病といった難病までなどさまざまな疾患に適用されています。一方で、新しい治療法であることから現状は自費診療で提供されており、その安全性について知りたい患者様も多くいるかと思います。そこで今回は、幹細胞治療の安全性について、過去15年間の研究データをまとめたいい論文(メタアナリシスといいます)のデータを背景もまじえてわかりやすく解説したいと思います。以下の文献は題名を検索すると無料で調べられますので、原本が知りたい方はぜひ参考にしてください。

[参考にした論文] The safety of MSC therapy over the past 15 years: a meta-analysis. Wang et al. Stem Cell Res Ther (2021) 12:545. https://doi.org/10.1186/s13287-021-02609-x

MSC治療とは

MSC(間葉系幹細胞)は、骨髄や脂肪組織、臍帯、胎盤などから採取される細胞です。これらの細胞は、損傷した組織の修復を助ける能力を持ち、炎症を抑える効果も期待されています。さらに、MSCは特定の細胞に分化する能力があり、骨や軟骨、脂肪細胞へと成長することができます。このような特性から、これまで治療が難しかった疾患に対する新たな希望とされています。日本国内では、現在自分から採取した脂肪から培養した幹細胞(自己脂肪由来幹細胞、自己脂肪由来MSC)を使った治療が、再生医療法という法律を通して厚生労働省からライセンスを得たクリニックのみで提供できるようになっています。

安全性に関する最新の研究

2021年に発表されたメタアナリシス(研究データの統合解析)は、MSC治療の安全性を包括的に評価しています。この研究は、62件の臨床試験に基づき、3,546名の患者様を対象に行われました。対象となる疾患は約20種類に及び、MSCは静脈注射や局所注射の形で投与されました。

主な結論とデータ

  1. 深刻な有害事象は確認されていない
    MSC治療は、以下のような深刻な事象に関連しないことが確認されています。
    ・死亡率:
    発生率: 治療群で0.99倍のリスク増加
    95%信頼区間(発生率の幅のイメージ): 0.66–1.49
    p値: 0.96(関連なし)
    ・感染症:
    発生率: 治療群で1.03倍のリスク増加
    95%信頼区間(発生率の幅のイメージ): 0.70–1.53
    p値: 0.87(関連なし)
    ・腫瘍形成:
    腫瘍形成のリスクを示す証拠はなく、よく心配されている癌の発生といったリスクは少ないという安全性が裏付けられました。
  2. 一部の軽度な有害事象が確認されている
    MSC治療に関連する可能性のある軽度な有害事象には、以下が含まれます。
    ・一時的な発熱:
    発生率: 治療群で3.65倍のリスク増加
    95%信頼区間(発生率の幅のイメージ): 2.05–6.49
    p値: <0.01(有意差あり)
    原因: MSCが免疫系を刺激し、治癒プロセスを開始することが関係していると考えられます。
    ・注射部位の軽度な反応:
    発生率: 治療群で1.98倍のリスク増加
    95%信頼区間(発生率の幅のイメージ): 1.01–3.87
    p値: <0.05(有意差あり)
    内容: 注射部位の腫れや痛みなどが一時的に起こる可能性があります。
    ・倦怠感:
    発生率: 治療群で2.99倍のリスク増加
    95%信頼区間(発生率の幅のイメージ): 1.06–8.44
    p値: 0.04(有意差あり)
    ・不眠:
    発生率: 治療群で5.90倍のリスク増加
    95%信頼区間(発生率の幅のイメージ): 1.04–33.47、かなり幅があるデータ
    p値: 0.05
    ・便秘:
    発生率: 治療群で2.45倍のリスク増加
    95%信頼区間(発生率の幅のイメージ): 1.01–5.97
    p値: 0.05
    これらの有害事象はすべて軽度で注射後の一時的なものでした。
     
  3. 一部の疾患で心律不整のリスクが低下
    MSC治療は、特定の心疾患を持つ患者様において心律不整のリスクを低下させる可能性があることが示されました。
    ・発生率: 治療群で0.62倍のリスク増加
    ・95%信頼区間: 0.36–1.07
    ・p値: 0.09(統計的には有意ではないが低下傾向)

    各用語が難しいと思いますので、補足的に説明させていただきます。

発生率: 「どのくらいリスクが変わるか」の目安です。

95%信頼区間(CI): 「結果がどの範囲内で信頼できるか」を示します。範囲が狭いほど、結果が安定して信頼できます。上記の発生率の幅をみています。

p値: 「結果が偶然でないか」を示します。p値が0.05未満であれば、意味のある結果(有意差がある)だと考えられます。逆に大きいと全く関係ないという風になります。

 

まとめと患者様へのメッセージ

MSC治療は、これまでの研究結果から見て安全性が高く、多くの疾患において効果が期待されています。ただし、一部の患者様には軽度の副作用が発生する可能性があります。特に一時的な発熱や注射部位の軽い痛みは、MSCが体内で炎症を抑える働きを始める際の正常な反応であると考えられます。幹細胞治療をしたせいで死亡率・感染率が上がることや、癌などの腫瘍ができることもないという安心できる治療であるという結果がでていますので、安心していただいていいと思います。


安全に治療を受けるために

  1. 医療機関の選択
    厳しい基準を満たした施設で治療を受けることが重要です。
    再生医療の認可を受けたクリニックを選びましょう。
  2. 治療前の相談
    持病や体調について、担当医と十分に話し合ってください。
    治療の目的やリスクについての理解を深めることが大切です。
  3. 治療後のフォローアップ
    治療後の経過観察を欠かさず、異常を感じた場合はすぐに医師に相談してください。


今後の課題と展望

MSC治療は、まだ発展途上の分野でもあります。現在、試験の多くは短期間の追跡データに基づいており、より長期間の安全性や有効性の確認が求められています。また、治療効果をさらに向上させるための研究も進行中です。


おわりに

MSC治療は、未来の医療を支える革新的な治療法として期待されています。今回の研究結果は、その安全性を裏付けるものであり、患者様にとってより安心して治療を受けられる環境が整いつつあります。ご自身の健康状態や治療の選択肢についてお悩みの場合は、ぜひセルグランクリニックの医師にご相談ください。適切な情報を基に、最善の治療法を選択するお手伝いをさせていただきます。