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COLUMN
2025.08.31
コラム

熱傷・火傷における再生医療(幹細胞治療)の可能性

日常生活やレジャー、職場など、さまざまな場面で不意に起こり得る熱傷・火傷(やけど)。その程度は軽微なものから、命にかかわるような重篤なものまで多岐にわたります。

今回は、熱傷・火傷の重症度分類から正しい応急処置の方法、医療機関で行われる最新の治療法、そして予防策までを分かりやすく解説します。

◇熱傷・火傷とは?原因と重症度分類

熱傷と火傷は同じ意味で使われる言葉で、高温の液体や固体、気体、あるいは化学物質や電気、放射線などによって皮膚や粘膜が損傷を受ける状態を指します。その重症度は、皮膚の損傷の深さによって3つの段階に分類されます。

Ⅰ度熱傷(浅い損傷)

皮膚の一番外側(表皮)のみの損傷。
症状: 赤み、ヒリヒリとした痛み、軽い腫れ。水ぶくれ(水疱)はできません。
治癒: 3~5日程度で自然に治り、痕は残りません。
原因: 日焼け、軽い湯気、一瞬触れた熱いものなど。

Ⅱ度熱傷(中等度の損傷)

表皮と真皮に損傷が及んだ状態。損傷の深さによってさらに2つに分類されます。

浅達性Ⅱ度熱傷(比較的浅い損傷)

症状: 強い痛み、赤み、水ぶくれ(水疱)ができる。水疱の下は湿潤しており、押すと白くなります。
治癒: 2週間程度で治り、色素沈着は残るものの、通常は痕になりません。

深達性Ⅱ度熱傷(比較的深い損傷)

症状: 痛みは比較的軽度(神経が損傷しているため)、水ぶくれができる。水疱の下は白色や斑模様になり、押しても色が変わらないことがあります。
治癒: 治癒まで3〜4週間以上かかり、肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)やケロイドなど、痕が残りやすいのが特徴です。

Ⅲ度熱傷(最も重い損傷)

皮膚の全層(表皮・真皮・皮下組織)に損傷が及んだ状態。
症状: 皮膚が白や黒に変色し、炭化していることもあります。神経が完全に破壊されているため、痛みはほとんどありません。
治癒: 自然治癒は期待できず、皮膚移植などの外科的治療が必須です。

◇熱傷が引き起こす後遺症と生活への影響

熱傷後には、以下のような後遺症が生じることがあります。

肥厚性瘢痕やケロイド: Ⅱ度熱傷やⅢ度熱傷が治癒する過程で、赤く盛り上がった痕が残ることがあります。

拘縮(こうしゅく): 関節部分にできた熱傷が原因で、皮膚が硬くなり関節の動きが制限されることがあります。

感染症: 広範囲の熱傷は皮膚のバリア機能を失うため、細菌感染のリスクが高まります。

心理的・社会的影響: 顔や手など目立つ部位に熱傷痕が残ると、日常生活や社会生活に支障をきたすことがあります。

これらの症状により、機能障害や精神的苦痛を伴うことがあり、早期の適切な治療とともに、効果的なリハビリや支援が重要とされています。

◇熱傷・火傷のタイプ別:原因と身体への影響

熱傷は、熱だけでなく様々な原因で引き起こされます。原因によって損傷の特性や身体に与える影響が異なるため、適切な処置が必要です。

熱湯や蒸気による熱傷

日常で最も多い原因です。特に乳幼児や高齢者の事故に注意が必要です。
熱湯に長時間浸かると、低温でも深い熱傷になる「低温やけど」を引き起こすことがあります。

化学熱傷

酸やアルカリなどの化学物質が皮膚に付着することで起こります。

酸性物質: 皮膚の表面にタンパク質を凝固させ、白く固い膜(凝固壊死)を形成し、比較的深くなりにくい傾向があります。

アルカリ性物質: 皮膚のタンパク質を溶かす作用が強く、深部にまで浸透するため、酸性物質よりも重症化しやすいのが特徴です。

電撃傷

高電圧や雷などの電流が身体を通過することで起こります。
見た目の皮膚の損傷は軽度でも、電流が体内で熱を発生させるため、筋肉や内臓に深刻な損傷を与えていることが多く、命に関わることもあります。

放射線熱傷

紫外線(日焼け)や放射線治療などで起こります。

紫外線(日焼け): Ⅰ度熱傷に分類されることが多く、時間とともに治癒します。

電離放射線(X線、ガンマ線など): 損傷は時間をかけて進行し、数週間〜数カ月後に皮膚が赤くなるなどの症状が現れます。重症化すると皮膚潰瘍や、まれに皮膚がんを誘発することもあります。

◇熱傷・火傷を負った際の応急処置

熱傷の重症度を軽減し、痛みを和らげるためには、初期の応急処置が非常に重要です。

冷却

まず第一に、流水で患部を15〜30分以上冷却します。
冷却することで、熱による組織の損傷が深部に及ぶのを防ぎ、痛みを軽減できます
冷却には水道水などの清潔な流水を使用しましょう。氷水や保冷剤は、患部を冷やしすぎて低体温を引き起こす可能性があるため避けてください。

身に着けているものを外す

指輪や腕時計、きつい衣服、靴などを速やかに外しましょう。熱傷部位が腫れてからでは外せなくなる可能性があります。

水ぶくれ(水疱)は破らない

水ぶくれは、患部を保護する役割を果たしています。むやみに破ると感染症のリスクが高まるため、清潔なガーゼなどで保護し、医療機関を受診しましょう。

専門医の受診

重症度にかかわらず、以下の場合はすぐに医療機関を受診してください。

  • 広範囲にわたる熱傷
  • 顔、手、足、関節、性器などの熱傷
  • Ⅱ度またはⅢ度熱傷が疑われる場合
  • 乳幼児や高齢者の熱傷

◇熱傷に対する従来の治療法

熱傷に対する従来の治療は、主に「保存療法」と「外科的治療」に分かれます。

保存療法(リハビリ、薬物療法)

リハビリテーション: 関節拘縮の予防や機能維持のために行われます。
薬物療法: 痛みや感染症の管理が中心となります。

しかし、これらの治療法では皮膚の損傷そのものを根本的に修復することはできず、残存機能の維持や症状の緩和を目指すに留まります。

外科的治療(手術)

デブリードマン: 壊死した組織を速やかに除去し、感染の拡大を防ぎます。
植皮術: Ⅲ度熱傷など自己治癒が困難な場合に、患者自身の皮膚を移植し、皮膚の再建を目指します。

これらの外科的治療は、救命や機能の維持に不可欠ですが、健康な皮膚を採取する必要があることや、術後に瘢痕が残る可能性があるなど、課題も残されています。

◇合併症の予防と管理

熱傷が重症化すると、以下のような合併症を引き起こす可能性があります。

感染症: 損傷した皮膚は細菌が侵入しやすいため、肺炎や敗血症などの重篤な感染症リスクが高まります。

瘢痕形成: 深達性Ⅱ度熱傷やⅢ度熱傷では、治癒後に肥厚性瘢痕やケロイド、拘縮(こうしゅく)などによる機能障害が残ることがあります。

心理的影響: 熱傷後の外見の変化は、心理的ストレスや不安を引き起こす可能性があります。

これらの合併症を予防するためには、専門的な医療機関での適切な処置と、その後のリハビリテーションが非常に重要です。

◇熱傷・火傷の予防策

熱傷は少しの注意で防げるものが多くあります。

家庭内

乳幼児向け: 電気ケトルやグリル付きコンロは手の届かない場所に置き、テーブルの端に熱い飲み物を置かない。
高齢者向け: 暖房器具やカイロによる低温やけどに注意し、入浴時の温度設定を確認する。

職場

製造業・建設業: 高温の機器や火気を扱う際は、耐熱手袋や保護服などの適切な保護具を着用する。作業環境のリスクアセスメントを定期的に行う。

屋外・レジャー

キャンプ・バーベキュー: たき火やコンロの周囲に燃えやすいものを置かない。火の始末を確実に行う。 スポーツ・日常: 日差しの強い日は、日焼け止めクリームや帽子、長袖の衣服などで紫外線対策を徹底する。

◇注目される再生医療(幹細胞治療)とは?

従来の治療法では完全な回復が困難だった熱傷治療において、再生医療、特に幹細胞治療が新たな可能性として注目されています。

再生医療(幹細胞治療)の基礎知識と仕組み

再生医療とは、損傷した組織や臓器を再生・修復し、その機能を回復させることを目的とする治療です。熱傷治療における幹細胞は、患者自身または他者から採取した幹細胞を培養し、損傷した部位に移植することで、皮膚組織の再生を促します。

熱傷治療への再生医療の作用メカニズム

皮膚組織の再生促進: 移植された幹細胞が、損傷した皮膚細胞の再生を促します。

抗炎症作用と血管新生: 幹細胞が炎症を抑える物質や成長因子を分泌することで、熱傷部位の炎症を鎮め、新しい血管の形成を助け、治癒過程を促進します。

瘢痕形成の抑制: 幹細胞がコラーゲンの過剰な産生を抑制することで、肥厚性瘢痕やケロイドの発生を抑える効果も期待されています。

幹細胞治療が熱傷にもたらす可能性

熱傷の治癒促進に加え、瘢痕形成を最小限に抑えることができるため、特に顔や手足など機能的・審美的に重要な部位の熱傷治療に大きな期待が寄せられています。

◇幹細胞治療の課題と今後の展望

幹細胞治療が本格的に普及するためには、移植後の安全性(腫瘍化リスクや拒絶反応)の確保と、治療効果の長期的な検証が重要です。
治療の標準化と、安定した再現性を確保することも課題となります。

最新の治療と承認状況:

熱傷治療の分野では、RECELL(レセル)細胞懸濁液スプレーのような、患者自身の皮膚細胞をスプレーすることで皮膚再生を促す革新的な治療法が実用化されています。
これらの技術は、再生医療と最先端医療機器の融合であり、今後のさらなる発展が期待されています。

◇よくある質問(Q&A)

Q1. 熱傷の応急処置で「冷やしすぎ」はよくないですか?
A. 熱傷部位を流水で冷やすことは重要ですが、氷や氷水で長時間冷やしすぎると、低体温や凍傷のリスクがあります。水道水などの清潔な流水で、患部全体をまんべんなく冷やしましょう。

Q2. 熱傷を負った際、何を塗ればいいですか?
A. 自己判断で軟膏や民間療法(アロエ、味噌など)を塗ることは、細菌感染のリスクを高めたり、医療機関での診断を妨げたりする可能性があるため避けてください。まずは流水でしっかり冷却することが最も重要です。

Q3. 小さな水ぶくれは自分で破っても大丈夫ですか?
A. 小さな水ぶくれでも、原則として自分で破らないでください。水ぶくれは無菌の液体と薄い皮膚の膜で患部を保護しているため、破ると細菌感染のリスクが高まります。

Q4. 低温やけどはなぜ気づきにくいのですか?
A. 低温やけどは、電気毛布やカイロなど比較的低い温度(44〜50℃)に長時間触れることで起こります。熱さが心地よく感じられるため、気づかないうちに皮膚の深い部分まで損傷していることがあり、重症化しやすいのが特徴です。

Q5. 熱傷の痕(瘢痕)は消すことができますか?
A. 痕の状態によります。軽度の痕であれば時間とともに目立たなくなることが多いですが、肥厚性瘢痕やケロイドの場合、手術やステロイド注射、レーザー治療などで改善を目指します。

Q6. 熱傷の治療で入院することはありますか?
A. 広範囲の熱傷や、顔、手、足などの機能上重要な部位の熱傷では、感染症の管理や手術のために長期入院が必要となる場合があります。

◇まとめ

熱傷は、その種類や重症度を正しく理解し、適切な応急処置を行うことが、その後の治癒と後遺症の有無を大きく左右します。近年、再生医療の発展により、瘢痕を最小限に抑え、より機能的・審美的な回復を目指す治療法も登場し、熱傷治療は新たな局面を迎えています。

この記事が、熱傷を負った際の冷静な判断の一助となり、今後の治療を考える上での客観的な情報提供となれば幸いです。

                           

執筆者

若林雄一

若林 雄一

セルグランクリニック 院長

医学博士
アメリカ再生医療学会専門医
抗加齢学会専門医
放射線診断専門医
核医学専門医

【略歴】                                        
アメリカ再生医療学会認定専門医資格を有し、神戸大学病院やアメリカ国立衛生研究所(NIH)で培った経験を基に、患者様一人ひとりのニーズに応じたオーダーメイド医療を提供しています。