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COLUMN
2025.08.27
コラム

コロナ後遺症に対する脂肪由来幹細胞治療と幹細胞上清液(エクソソーム)の効果

コロナ後遺症と再生医療の可能性

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)から回復した後も、長期間にわたりさまざまな体調不良が続く状態は「コロナ後遺症(Long COVID)」と呼ばれます。

多くの患者が倦怠感、呼吸困難、咳、嗅覚・味覚障害、認知機能の低下などに悩まされ、約10%の人に3週間以上症状が続き、重症患者では6か月後に76%が何らかの症状を訴えるとの報告もあります。こうしたコロナ後遺症に対し、近年注目されているのが再生医療のアプローチです。

その中でも脂肪由来幹細胞(ADSC)を用いた治療と、幹細胞から抽出した培養上清液(エクソソームを含む)による治療は、新たな選択肢として期待されています。

本コラムでは、脂肪由来幹細胞および幹細胞上清液によるコロナ後遺症治療のメカニズムと効果、安全性、最新の臨床研究データについてわかりやすく解説します。専門的な内容も含みますが、できるだけ平易な比喩を用いて説明します。

脂肪由来幹細胞(ADSC)治療の仕組みと効果

脂肪由来幹細胞(ADSC:Adipose-Derived Stem Cell)は、その名のとおり脂肪組織から採取される幹細胞で、骨髄や臍帯由来の幹細胞と同じ「間葉系幹細胞(MSC)」の一種です。患者ご自身の皮下脂肪から比較的容易に大量に採取できるため、自己由来の細胞を使った治療が可能であり、ドナーを必要としない利点があります。

ADSCは多能性を持ち、必要に応じて様々な細胞に分化する能力がありますが、実際の治療効果の多くは分泌する生理活性物質によるものです。例えるなら、ADSCは傷ついた組織に派遣される「修理チーム」のような存在で、壊れた細胞を直接修復したり新しい細胞に置き換えたりするだけでなく、周囲に「修復指令」や「治癒物質」を送り出します。

ADSCが分泌する物質には、成長因子、抗炎症サイトカイン、免疫調節因子、抗酸化物質など様々なものが含まれます。これらにより過剰な炎症反応(サイトカインストーム)を鎮め、免疫システムの暴走にブレーキをかける作用があります。また損傷した組織においては、組織修復や再生を促進し、肺であれば肺胞の保護や肺線維症の予防にもつながります。

さらに、幹細胞は静脈内投与を行うと体内を巡りますが、特に肺に多く留まる性質があり、これは肺を主とするコロナ後遺症の治療にとって理想的です。まさに傷んだ肺に駆けつけて消火活動と修理を行う「消防士兼修理工」のような役割を果たすのです。

ADSC治療の効果については、質の高い臨床研究から有望な結果が報告されています。たとえば2023年に実施されたコロナ後遺症患者10名を対象とした試験では、自己の脂肪由来幹細胞を5回にわたり点滴投与することで、倦怠感や呼吸器症状のVAS(視覚的アナログ尺度)スコアおよび疲労スコアが有意に改善し(治療前後の比較でp = 0.0039)、患者の生活の質(QOL)も向上しました。

このプログラムでは有害事象(副作用)は主に軽度で、重篤な副作用は一例も認められなかったことが報告されています。また別の国際共同研究では、重症COVID-19患者に臍帯由来の幹細胞を点滴した結果、肺のダメージが顕著に軽減し、症状改善と生存率向上が認められ、安全性も良好であったことが示されています。

さらには2024年のメタ解析で、複数の臨床試験データを統合して解析したところ、MSC治療を受けた患者では死亡率の低下および症状の改善がみられ、副作用の発生率も対照群と差がなかったと報告されています。これらのエビデンスは、ADSCを含む幹細胞治療がコロナ後遺症や関連疾患に対して有効性と安全性を兼ね備えた再生医療アプローチである可能性を示唆しています。

幹細胞上清液(エクソソーム)治療の仕組みと効果

幹細胞上清液とは、幹細胞を培養したときに細胞から放出され培養液中に含まれる有効成分を指します。上清液中には様々なサイトカインや成長因子、酵素、そしてエクソソームと呼ばれる微小なカプセル状の小胞が含まれています。

エクソソームは直径50~150ナノメートルほどの極めて小さな膜状の小包で、幹細胞が周囲に送る「メッセンジャー」または「宅配便」のようなものです。中にはタンパク質や脂質、マイクロRNAなどの遺伝子調節物質が詰まっており、これらが受け取った細胞の働き方を変化させます。言わば、エクソソームは幹細胞から「治癒の処方箋」や「修復キット」が詰まった荷物を届ける配送車のような役割を果たしており、標的となる細胞にピンポイントで修復シグナルを伝達します。

幹細胞上清液療法では、このエクソソームや有益な因子のみを抽出して患者に投与します。ADSCなど生きた細胞そのものは使わず、細胞が作り出した「良いもの」だけを利用するアプローチです。そのため細胞を使わない利点がいくつかあります。

例えば、拒絶反応や腫瘍形成のリスクが極めて低いこと、製剤として保存や輸送が容易であること、さらに粒子が非常に小さいため生体内を広範囲に巡りやすく、脳など細胞自体では到達しにくい部位にも届く可能性があることなどです。コロナ後遺症では中枢神経系の症状(ブレインフォグや認知障害など)も問題となりますが、エクソソームは血液脳関門を通過し得ることから脳への作用も期待できます。

エクソソームや上清液中の因子が人体にもたらす作用機序は幹細胞治療と本質的に似ており補完的です。強い抗炎症作用があり、炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-6、IL-17、IFN-γなど)の過剰産生を抑制することでコロナ後遺症に関連する慢性炎症を和らげます。実際、試験管内の研究ではエクソソーム投与により免疫細胞から分泌される炎症性物質が有意に低減したとの結果が報告されています。

またエクソソームは受け取った組織で遺伝子発現を微調整し、損傷組織の自己修復や再生を促す作用も持ちます。傷んだ細胞に対しては「元気を出して増殖しなさい」という成長促進シグナルを送り、免疫細胞に対しては「攻撃を和らげなさい」という調節シグナルを送ることで、炎症と組織修復のバランスを整えるのです。これらの作用により、コロナ後遺症で問題となる組織の慢性的なダメージ(例:肺の線維化や血管障害)の修復を助け、症状の軽減に寄与すると考えられます。

幹細胞上清液療法も近年、世界で臨床研究が始まっています。投与経路は点滴静注が一般的ですが、肺症状に対してはエアロゾル吸入による投与も試みられています。初期段階の小規模試験ながら、有望な報告が出始めています。例えば脂肪由来幹細胞から抽出したエクソソームを7名のCOVID-19肺炎患者に吸入投与したケースでは、5日間の連日投与で副作用は認められず、わずか1週間で肺のCT画像所見の改善が確認されました。

また別の試験では骨髄由来の幹細胞から得たエクソソームを点滴静注したところ、こちらも高用量・低用量ともに偽薬群と比較して有害事象は増加せず、安全に投与可能であったと報告されています。さらに、コロナ後遺症患者に対するエクソソーム点滴のケース報告では、肺の慢性炎症が軽減し呼吸機能や酸素飽和度の改善、倦怠感の軽減などが見られたとの記述もあります。こうした結果はまだ初期的なものですが、幹細胞上清液(エクソソーム)療法がコロナ後遺症の症状緩和に有用な可能性を示しており、今後の大規模臨床試験の成果が期待されます。

安全性と副作用について

再生医療というと安全面を心配される方もいるかもしれません。脂肪由来幹細胞および幹細胞上清液療法の安全性については、現在までの研究で概ね良好な結果が示されています。まず幹細胞そのものを用いる治療では、自己細胞を使う場合は拒絶反応のリスクはほぼありません。

同種の他者由来細胞を使う場合でも、MSCは免疫を活性化しにくい性質があるため比較的安全に投与できます。実際、前述のメタ解析(14件のRCT対象)では幹細胞治療群と対照群で有害事象の発生率に差がなく、治療による重大な副作用は確認されなかったとされています。

またCOVID-19患者に対する複数回のADSC点滴を検証した無作為化試験でも、報告された副作用は大半が軽度で、治療との因果関係が明確な重篤な副作用は認められなかったと結論づけられました。具体的な軽い副反応としては、一時的な体温上昇や注射部位の痛み、倦怠感などが稀に見られる程度で、従来の点滴療法と大きく変わりません。

エクソソームなど幹細胞上清液を用いる治療では、細胞を体内に入れないためさらに安全性への期待があります。先述のように、エクソソーム自体は遺伝子を持たず増殖もしないため腫瘍性や変異原性のリスクが実質ないと考えられています。初期の臨床試験でも、吸入あるいは点滴で投与されたエクソソームは良好な耐容性を示し、用量依存の毒性や有害事象の増加は見られなかったとの報告があります。

もっとも、幹細胞上清液製剤は製造過程において無菌性の確保や不純物除去など品質管理が極めて重要です。不適切な製造による汚染があれば感染症など重大なリスクとなり得るため、現在この点に関しては標準化に向けた研究開発が進められています。医療機関で正規に提供される上清液療法では、このような品質管理をクリアしたものが使われますので、信頼できる施設で受けることが大切です。

長期的な安全性についても現在観察研究が継続中ですが、これまでのデータでは幹細胞治療を受けた患者に腫瘍の発生率増加は認められず、投与1年後のフォローでも腫瘍マーカーに異常はみられなかったとの報告があります。

総合すると、幹細胞治療・エクソソーム治療はいずれも現在まで大きな安全上の問題は確認されておらず、副作用は少なく軽微であることが示唆されています。ただし、新しい治療法である以上、今後も長期的な追跡と慎重な評価が必要です。専門医と相談しながら、安全対策が十分になされた環境で治療を受けることが重要でしょう。

よくある質問(FAQ)

Q1. コロナ後遺症にはどんな症状がありますか?
A. 倦怠感、息切れ、咳、頭痛、嗅覚・味覚障害、集中力低下(ブレインフォグ)などが代表的です。これらは数週間から数か月続くことがあり、生活に大きな影響を与えます。

Q2. 再生医療はコロナ後遺症にどのように役立ちますか?
A. 幹細胞やエクソソームが持つ抗炎症・免疫調整作用により、慢性的な炎症を抑え、損傷した肺や神経組織の修復をサポートします。

Q3. 幹細胞はコロナ後遺症のどの臓器に効果が期待できますか?
A. 主に肺(呼吸機能改善)、脳(認知障害やブレインフォグ)、心血管系(動悸・血流改善)への作用が研究されています。

Q4. コロナ後遺症に対して実際の臨床研究はありますか?
A. 2023年の試験では、脂肪由来幹細胞を投与した患者で倦怠感・呼吸困難が有意に改善しました。2024年のメタ解析でもMSC治療により死亡率低下や症状改善が報告されています。

Q5. エクソソーム療法はコロナ後遺症に効果がありますか?
A. 初期の研究ですが、吸入投与や点滴で肺の炎症が改善した例や、倦怠感・酸素飽和度が改善した症例報告が出ています。脳症状への効果も期待されています。

Q6. 幹細胞やエクソソームはウイルスそのものを治すのですか?
A. 直接ウイルスを排除するのではなく、ウイルスによる炎症ダメージを和らげ、損傷した組織の回復を促すのが主な働きです。

Q7. 新型コロナの急性期(感染直後)にも使えるのですか?
A. 重症急性期にも臨床試験が行われており、肺炎やサイトカインストームを軽減する結果が出ています。ただし標準治療ではなく、補助的な治療として研究が進んでいます。

Q8. 再生医療による副作用はありますか?
A. 現在までの臨床試験では重篤な副作用は報告されていません。まれに一時的な発熱や倦怠感が出ることがありますが、多くは自然に軽快しています。

Q9. 治療は一度で効果がありますか?
A. 個人差があります。数回の投与で症状が改善する例もありますが、慢性化している場合は複数回の治療や継続的なフォローが必要です。

Q10. 誰でも受けられる治療ですか?
A. 成人を対象とすることが多いですが、持病や免疫状態によって適応が異なります。治療を希望される場合は、事前に専門医のカウンセリングで適応を確認する必要があります。

コロナ後遺症克服に向けた再生医療の展望

コロナ後遺症に対する脂肪由来幹細胞治療および幹細胞上清液(エクソソーム)療法は、根本から体を立て直すアプローチとして大きな期待を集めています。対症療法ではなく、傷ついた組織の回復や免疫バランスの正常化を促すことで、長引く症状の改善を目指すものです。

現時点で得られている臨床データは規模こそ限定的なものの、症状の改善傾向やQOL向上、安全性の高さが示されており、まさに次世代の治療法といえるでしょう。特に「再生医療」という視点からコロナ後遺症に取り組むことで、従来の薬物療法では十分に効果が得られなかった患者さんにも新たな希望を提供できる可能性があります。

もちろん、まだ保険診療として確立された治療ではなく、更なる大規模臨床試験とエビデンスの蓄積が求められます。しかし世界中で研究が進展しており、再生医療によるコロナ後遺症克服の日は着実に近づいています。

私たち医療者も最新の知見を注視しつつ、患者さん一人ひとりに最適な治療を提供できるよう努めてまいります。コロナ後遺症に苦しむ方々が、一日も早く幹細胞やエクソソームによる再生医療の恩恵を受けられる未来に向けて、本コラムがお役に立てば幸いです。

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執筆者

若林雄一

若林 雄一

セルグランクリニック 院長

医学博士
アメリカ再生医療学会専門医
抗加齢学会専門医
放射線診断専門医
核医学専門医

【略歴】                                        
アメリカ再生医療学会認定専門医資格を有し、神戸大学病院やアメリカ国立衛生研究所(NIH)で培った経験を基に、患者様一人ひとりのニーズに応じたオーダーメイド医療を提供しています。