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COLUMN
2025.07.31
コラム

脊柱管狭窄症における再生医療(幹細胞治療)の可能性

◇ 高齢化社会における脊柱管狭窄症の治療課題

日本は超高齢化社会を迎え、脊柱管狭窄症に悩む方が増えています。脊柱管狭窄症は、腰や脚の痛み・しびれを引き起こし、日常生活に大きな支障を与える病気です。従来の治療法だけでは症状が改善しないケースもあり、新たな治療法として再生医療(幹細胞治療)が注目されています。

今回は、脊柱管狭窄症に対する再生医療の最新動向や可能性について詳しく解説します。

◇ 脊柱管狭窄症とは?

病気の概要と発症メカニズム

脊柱管狭窄症は、背骨(脊椎)の内部を通る神経の通り道(脊柱管)が狭くなり、神経を圧迫することで痛みやしびれを生じる疾患です。主な原因は加齢による骨や靭帯の変形ですが、椎間板の突出(ヘルニア)や脊椎のずれ(すべり症)も関係します。

一般的には50歳以上で発症することが多く、60~70代でピークを迎えます。高齢になるほど症状が重くなる傾向があり、患者数も年々増加しています。

脊柱管狭窄症の主な症状と進行過程

主な症状として以下が挙げられます。

  • 腰や臀部、脚の痛みやしびれ
  • 歩行中の痛みやだるさ(間欠跛行)
  • 前かがみの姿勢で症状が軽くなる
  • 排尿・排便障害(重症例のみ)

症状は徐々に進行することが多く、初期には休息で回復しますが、進行すると日常的な活動が難しくなります。特に歩行障害は生活の質を大きく低下させます。

◇ 脊柱管狭窄症が日常生活に与える影響

歩行障害や腰痛による生活の質(QOL)の低下

脊柱管狭窄症は、日常生活のあらゆる場面に影響を及ぼします。特に歩行時に痛みやしびれが生じるため、外出や買い物が億劫になり、活動範囲が狭まります。外出機会が減少すると社会的孤立や運動不足にも繋がり、精神的なストレスや生活習慣病のリスクも高まります。

また、腰痛や下肢のしびれのため、睡眠が妨げられるケースも多く、慢性的な睡眠不足や疲労感が蓄積されることも少なくありません。

放置した場合のリスクと合併症について

脊柱管狭窄症を放置すると、症状が進行し、以下のようなリスクや合併症が生じる可能性があります。

運動機能の低下

痛みやしびれが慢性化すると筋力が衰え、歩行が困難になることがあります。特に高齢者では歩行障害が転倒リスクを増大させ、骨折などの二次的障害の原因になる可能性があります。

排尿・排便障害

重症化すると神経の圧迫が強まり、排尿や排便を制御する機能が障害される場合があります。これらは生活の質を著しく低下させ、日常生活での介護が必要になるケースもあります。

心理的影響

痛みや活動制限が長期化すると、不安感や抑うつ状態など、精神的な症状を引き起こす可能性があります。これがさらなる活動量の低下や社会的孤立につながり、悪循環となることもあります。

以上のように、早期の適切な診断と治療が重要であり、症状を放置せず専門医の診察を受けることが推奨されます。

◇脊柱管狭窄症に対する従来の治療法

脊柱管狭窄症の治療は、まず保存療法から始められることが一般的です。具体的には以下のような治療法があります。

薬物療法

  • 消炎鎮痛剤(NSAIDs)による痛みや炎症の軽減
  • 神経障害性疼痛治療薬による神経症状の緩和
  • 筋弛緩薬による筋肉の緊張緩和

リハビリテーション

  • 腰や下肢の筋力強化訓練
  • 柔軟性や関節可動域の改善訓練
  • 日常生活動作(ADL)の訓練・指導

これらは症状を一時的に軽減・管理するのに有効ですが、疾患そのものを根本的に改善することは難しく、進行性の病態には限界があります。

外科的治療(手術)の方法とメリット・デメリット

保存療法で十分な改善が得られない場合、手術治療が検討されます。脊柱管狭窄症に対する手術治療の代表的な方法として以下があります。

脊柱管拡大術(除圧術)

狭くなった脊柱管を広げ、神経への圧迫を取り除く手術です。手術直後から症状が改善するケースが多く、重症例に対して非常に有効です。

脊椎固定術

背骨が不安定な場合やすべり症を伴う場合、金属の器具などで脊椎を固定する手術です。安定性が増し、症状が長期間改善することがあります。

しかし、外科手術には感染症や神経損傷、術後の長期的なリハビリ、入院期間などのデメリットも存在します。また、高齢者や全身状態が不良な患者には、手術が困難である場合も少なくありません。

従来治療の限界と残された課題

従来の保存療法や外科治療は、症状の緩和や神経圧迫の除去が中心ですが、損傷した神経そのものや脊椎周囲の組織の修復には至りません。そのため、症状が再発するケースや手術後に残る慢性疼痛などの問題も存在します。

さらに、手術を希望しない患者や、体力的に手術に耐えられない患者にとって、十分な治療選択肢が不足していることも課題となっています。

◇再生医療(幹細胞治療)への注目

脊柱管狭窄症治療における再生医療とは?

再生医療とは、患者自身やドナーから採取した細胞を用いて、損傷した組織の修復や再生を目指す先進的な治療法です。脊柱管狭窄症に対しては特に「幹細胞治療」が研究されており、損傷部位の組織再生や炎症軽減によって、神経症状を根本的に改善する可能性が注目されています。

幹細胞治療のメカニズム(炎症抑制、組織修復作用)

幹細胞治療では、以下のメカニズムによる効果が期待されています。

炎症抑制作用

幹細胞が放出する抗炎症性物質により、神経周囲の炎症が軽減され、痛みやしびれが改善される可能性があります。

組織修復作用

幹細胞が分泌する成長因子が、脊椎周囲の損傷した組織の修復を促します。これにより神経圧迫を軽減し、機能の改善が期待されます。

神経保護作用

幹細胞には、神経細胞の損傷を防ぎ、既存の神経を保護する働きがあることも示唆されています。

◇幹細胞治療が脊柱管狭窄症にもたらす可能性

幹細胞治療による症状改善への期待(疼痛緩和、機能回復)

幹細胞治療の導入によって、従来の保存療法や手術治療では改善が難しかった慢性的な疼痛やしびれが軽減する可能性があります。また、治療後の組織修復によって神経の圧迫が緩和されれば、筋力や歩行能力など、機能回復への期待も高まります。

特に手術が困難な患者や、従来治療で十分な効果が得られなかった患者にとって、新たな治療の選択肢となる可能性があります。

従来治療との具体的な違いと利点

幹細胞治療と従来の治療法の最大の違いは、「損傷部位の組織修復や神経保護を目的とする根本的な治療である」点です。従来の保存療法は症状を一時的に抑えることが主目的であり、外科手術は神経への圧迫を取り除くことに焦点を当てていますが、組織そのものを再生させることは困難です。

幹細胞治療の主な利点は以下です。

  • 侵襲が比較的少ない(手術と比較して)
  • 根本的な組織再生を目的としている
  • 長期的な疼痛軽減や機能改善の可能性がある
  • 手術が困難な患者に新たな選択肢を提供できる可能性

一方で、幹細胞治療はまだ研究段階であり、治療の効果や安全性に関する十分なエビデンスが蓄積される必要があるという課題も残されています。

◇幹細胞治療の臨床研究の現状と今後の課題

国内外の研究状況と最新の成果

脊柱管狭窄症に対する幹細胞治療の臨床研究は、国内外で活発に行われています。海外では特に米国や韓国などで骨髄由来の幹細胞や脂肪由来の間葉系幹細胞を用いた治療研究が進行中であり、疼痛や歩行機能の改善に有望な結果が報告されています。

日本においても、脊柱管狭窄症を含む脊椎疾患に対して幹細胞を用いた臨床研究が開始されており、初期的な研究成果として疼痛緩和や運動機能改善などが報告されています。ただし、まだ治療法として一般的に認められるには至っておらず、治療効果や適応患者の明確化に向けた研究が進められている段階です。

幹細胞治療の安全性・有効性に関する課題と展望

幹細胞治療の臨床応用を広めるためには、安全性と有効性に関する課題をクリアする必要があります。特に重要な課題として以下が挙げられます。

治療効果の一貫性

個人差が大きいため、どの患者にどのような治療が最も効果的かを明確にする必要があります。

細胞品質の管理

治療に使用する細胞の品質を安定して確保することが必要です。培養施設の整備や品質基準の統一が求められます。

長期的な安全性の確認

細胞投与後の腫瘍形成のリスクや免疫反応など、長期間の安全性評価が不可欠です。

今後さらに多くの臨床試験や研究を通じて、こうした課題を解決し、有効かつ安全な治療法として確立することが期待されています。

◇日本における治療承認と今後の展望

脊柱管狭窄症に対する幹細胞治療の日本国内の承認状況

日本国内では、脊柱管狭窄症に対する幹細胞治療はまだ一般的な治療法として承認されていません。しかし、他の脊椎疾患や関節疾患への幹細胞治療が条件付き承認を得ている例もあり、脊柱管狭窄症も含めて今後の臨床データの蓄積によって承認への道筋がつけられる可能性があります。

現在、日本の再生医療法に基づき、特定認定再生医療等委員会の承認を受けた臨床研究が少しずつ進んでいる段階であり、今後数年間でのデータ蓄積が待たれます。

今後の臨床応用の可能性と展望

今後、幹細胞治療が脊柱管狭窄症に対する治療として確立される可能性は大いにあります。特に以下の点での臨床応用が期待されています。

手術が困難な患者への新たな治療選択肢

高齢者や全身状態が不安定な患者にとって、手術に代わる低侵襲な治療法として普及する可能性があります。

従来治療では不十分な患者の機能改善

保存療法や手術療法で十分な効果が得られなかった患者に対し、より根本的な改善を目指すことができるかもしれません。

予防医療としての応用可能性

疾患の早期段階において幹細胞治療を導入し、症状の進行を防止または遅延させる治療法としても期待されています。

しかし、臨床応用が広く行われるためには、さらに多くの臨床試験の成果や治療効果の明確なエビデンスが求められます。今後数年間での研究進展により、日本国内でも脊柱管狭窄症に対する幹細胞治療が一般的な治療選択肢となる可能性があるでしょう。

◇よくある質問(Q&A)

Q1. 脊柱管狭窄症と椎間板ヘルニアの違いは何ですか?
A. 脊柱管狭窄症は脊柱管という神経の通り道が狭くなって神経を圧迫する疾患です。一方、椎間板ヘルニアは椎間板が突出して神経を圧迫する疾患で、原因や病態が異なります。

Q2. 脊柱管狭窄症は完治する病気でしょうか?
A. 完治というより症状の改善や進行を防ぐことが治療の目標です。治療によって症状を十分にコントロールし、生活の質を改善することは可能です。

Q3. 脊柱管狭窄症を予防するために、普段からできることはありますか?
A. 適度な運動、体重管理、正しい姿勢を維持することが予防に効果的です。また、腰回りや下肢の筋力維持を心がけると予防効果が高まります。

Q4. 手術を行った場合、再発することはありますか?
A. 脊柱管狭窄症の手術後でも再発する可能性はあります。再発を防ぐには、術後の適切なリハビリと定期的なフォローアップが重要です。

Q5. 脊柱管狭窄症が疑われる場合、どのような検査が必要ですか?
A. 主にMRI検査が用いられ、神経の圧迫の状態や脊柱管の狭窄の程度を詳細に調べます。必要に応じてX線(レントゲン)やCT検査も行われます。

Q6. 脊柱管狭窄症に効くストレッチや運動はありますか?
A. 症状緩和には、腰椎周囲の筋肉を柔軟にするストレッチや、腰や下肢の筋肉を強化する運動(スクワットや体幹トレーニングなど)が効果的です。ただし、症状が強い場合は医師や理学療法士と相談の上行ってください。

Q7. 脊柱管狭窄症の治療は、何科を受診すればよいでしょうか?
A. 整形外科が専門です。腰痛や下肢のしびれなど症状があれば、まず整形外科を受診することをおすすめします。

Q8. 脊柱管狭窄症の手術にはどれくらいの入院期間が必要ですか?
A. 手術方法や個人差にもよりますが、一般的には1〜2週間の入院期間が必要で、その後は自宅でのリハビリや通院によるリハビリを継続します。

◇まとめ

脊柱管狭窄症は高齢化社会の進行とともに患者数が増加している疾患です。従来の保存療法や手術療法には一定の限界があり、新たな治療法として再生医療(幹細胞治療)が注目されています。幹細胞治療は、神経の圧迫による症状だけでなく、損傷した組織を修復するという根本的な治療を目指しています。

現時点ではまだ研究段階であり、広く臨床に応用されるにはさらなるデータの蓄積と安全性・有効性の確認が必要ですが、近い将来、新たな治療の選択肢として普及する可能性は十分にあります。

脊柱管狭窄症に悩まれている方にとって、本記事が症状改善や治療法選択の参考になれば幸いです。

                           

執筆者

若林雄一

若林 雄一

セルグランクリニック 院長

医学博士
アメリカ再生医療学会専門医
放射線診断専門医
核医学専門医

【略歴】                                        
アメリカ再生医療学会認定専門医資格を有し、神戸大学病院やアメリカ国立衛生研究所(NIH)で培った経験を基に、患者様一人ひとりのニーズに応じたオーダーメイド医療を提供しています。

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