ビタミンDと紫外線と加齢
「太陽のビタミン」とも呼ばれるビタミンD。年齢を重ねるとともに不足しがちになると言われており、現代人の多くが慢性的な不足状態にあることが問題となっています。紫外線に当たるとビタミンDが生成される一方で、紫外線による肌老化や皮膚がんのリスクも気になるところです。
このジレンマをどう解決すべきか。健康寿命やアンチエイジングに関心の高い40代以降の方々に向けて、ビタミンDと紫外線との上手な付き合い方について詳しく解説します。
ビタミンDの重要な役割
ビタミンDは体内でホルモンのように働き、カルシウムの吸収を助けて骨を強く保つ重要な役割を担っています。成長期にビタミンDが不足すると、子どもでは骨が曲がる「くる病」、大人では骨軟化症を引き起こすことがあります。
軽度の不足であっても、長期的には骨密度の低下を招き、骨粗鬆症(骨のスカスカ化)につながります。特に閉経後の女性では、ビタミンD不足により骨粗鬆症のリスクが大幅に高まることが知られています。
また、ビタミンDは筋力にも影響を与えます。高齢者においてビタミンDが不足すると筋力低下や転倒リスクの増加につながるという報告も多数あり、健康な加齢にとって欠かせない栄養素と言えるでしょう。
免疫機能と疾患リスクへの影響
骨以外への影響として、免疫機能との関連も注目されています。ビタミンDは免疫機能を調整し、感染症の予防に役立つ可能性があります。
さらに興味深いことに、ビタミンD不足の人は十分な人に比べて一部の癌の発症率が高いという疫学研究がいくつも報告されています。例えば、血中ビタミンDが低い群では大腸癌や乳癌などの罹患リスクが高かったという結果が示されています。
ただし、ここで重要な注意点があります。こうした観察研究は「関連」を示すだけで因果関係を証明するものではありません。実際に、ビタミンDをサプリメントで与えて本当に癌が減るのか検証した大規模臨床試験では、残念ながら癌の発症率を下げる効果は確認されませんでした。
一方で、ビタミンDを十分に摂取すると癌による死亡率がわずかに低下したとのメタ解析も報告されています。つまり、「ビタミンDが不足しないようにする」ことは重要ですが、「大量に摂取すれば癌にならない」というものではないということです。基礎的な健康維持には不可欠だが、魔法の薬ではないと理解することが大切です。

ビタミンDはどのように作られるのか
ビタミンDの特徴的な点は、食べ物からだけでなく皮膚で合成されることです。皮膚には「7-デヒドロコレステロール」という物質があり、UVBという紫外線B波を浴びるとこれがビタミンD₃に変化します。
その後、ビタミンD₃は肝臓で25(OH)Dに、腎臓で活性型の1,25(OH)₂Dに変換されます。活性型になるまでに2段階のステップが必要ですが、その第一歩は紫外線UVBを浴びることなのです。
体内でビタミンDという鍵を作るには、太陽という工場のスイッチを入れる必要があると例えることができるでしょう。このように、日光浴がビタミンD合成の引き金となる重要なプロセスなのです。
現代人のビタミンD不足の深刻さ
日光に全く当たらない生活をしていると、よほど食事やサプリメントで補充しない限りビタミンD不足に陥ります。日本人でも特に日焼けを避ける傾向の強い女性では、約9割がビタミンD欠乏状態との調査結果があります。
現代社会では屋内生活やUVカットが「健康的」とされる一方で、それがビタミンD不足という新たな問題を生んでいるのです。
実際の調査データを見ると、その深刻さが浮き彫りになります。日本のある研究では、夏でも約半数、冬には8割以上の成人がビタミンD不足または欠乏と判定されました。特に冬場は日照が弱いため顕著で、高緯度の地域では冬場の紫外線の角度の関係でビタミンD”冬”とも呼ばれる時期があります。
北海道などでは11月から3月にかけて、必要なUVBが地表に届かずビタミンDがほとんど作れません。このように、多くの現代人が慢性的なビタミンD不足のリスクを抱えているのが現状です。
紫外線の正しい理解:UV-AとUV-Bの違い
紫外線には主にUV-AとUV-Bの2種類があり、それぞれが人体に与える影響は大きく異なります。
UV-Bは先述の通りビタミンD合成に必要な紫外線ですが、UV-AにはビタミンD合成効果がありません。波長が長いUV-Aは皮膚の真皮まで深く到達し、コラーゲンを変性させてシワやたるみなど肌老化(光老化)を引き起こします。またUV-Aは活性酸素を発生させて間接的にDNAを損傷し、長期的な発癌リスクとなります。
一方、波長が短いUV-Bはエネルギーが強く、表皮で直接DNAを傷つけて日焼け・炎症(いわゆるサンバーン、赤くなる日焼け)を起こします。UV-Bも皮膚癌の原因になりますが、主な作用部位は表皮です。
覚え方として「Aはエイジング(老化)、Bはバーン(火傷)」と理解すると違いが分かりやすいでしょう。
地表に届く紫外線の実態
UVBは波長が短いためオゾン層に吸収されやすく、地表に届く量は全紫外線のうち5〜10%程度と少なくなっています。一方UVAはオゾンに吸収されず90%以上が地表に届きます。
つまり太陽光には常にUVAは豊富に降り注ぎますが、UVBは日中の太陽が高い角度にある時間帯でないと十分には届かないのです。
例えば朝夕の太陽は角度が低く大気を通る距離が長いため、UVBはほとんど地表に届かずUVAばかりになります。曇りガラスや窓もUVBはほぼカットしますがUVAは通します。ですから室内にいて窓越しに日光を浴びてもビタミンDは合成されません。一方でUVAはしっかり届いて肌をじわじわ老化させる可能性があるのです。
最近の高機能な日焼け止めが「PA+++」などと表示しているのは、UVAも防ぐ効果を示しています。日焼け止め(SPF15程度)を塗るとUVBが95%以上遮断され、ビタミンD合成もほぼストップします。現実には日焼け止めの塗り残しや分解もあるので多少は作られるとの報告もありますが、いずれにせよUVBをいかに適度に確保するかがポイントになります。
安全で効果的な日光浴の方法
「紫外線に当たるべきか、当たらざるべきか」という悩ましい問題の解決策は、紫外線と上手に付き合うことです。極端に全く当たらないのも問題ですが、闇雲に浴びれば良いものでもありません。
重要なのは適切なタイミングと時間で、必要最小限の紫外線を効率よく活用することです。
推奨される日光浴の方法
1. 日光浴の時間帯と長さ
ビタミンD合成には午前10時〜午後3時頃の太陽光が効果的です。中でも正午前後の太陽が高い時間はUVB比率が高く、短時間で効率よくビタミンDが作られます。反対に朝夕は効率が悪くなります。
おすすめは正午前後に15分程度、腕や顔など一部を日に当てることです。肌の弱い人は5〜10分でも構いません。日焼け止めはその間はオフにし、終わったらまた塗り直すと良いでしょう。
短時間であれば日焼けによる炎症(赤くヒリヒリ)を起こすリスクも低く抑えられます。実際、ノルウェーの研究者らは「短時間の正午前後の日光浴は、夕方に長時間浴びるよりビタミンDを最大限産生しつつ皮膚がんリスクを最小化できる」と報告しています。
2. 肌の露出部位
顔だけよりも腕や脚など広い範囲を日に当てた方が効率は上がります。とはいえ顔は紫外線ダメージが蓄積しやすい部分ですので、帽子や日傘で顔は守りつつ腕だけ出すといった工夫でも良いでしょう。
オーストラリアの皮膚がん対策指針でも「数分間の腕・脚曝露で十分」と強調されています。「1日に必要な日光浴は10分程度で、残りはしっかりUV対策を」といったガイドラインもあります。
3. 個人差への配慮
色白の方は短時間でもビタミンDが作られますが、日焼けしやすく皮膚がんリスクも高いのでより短い日光浴で十分です。一方、肌が濃い色の方(メラニンが多い肌)は同じビタミンDを作るのに数倍長い日光浴が必要になると言われます。
高齢になると肌のビタミンD前駆物質(7-DHC)の量が減るため、若い頃より日光浴しても合成効率が落ちています。ですから高齢の方は意識して適度な日光浴を取り入れるか、食事・サプリメントで補うことが重要です。

4. 季節と地域による調整
夏場は短時間でも十分ですが、冬場は太陽高度が低く作られる量が少なくなります。また北海道など北の地方では冬の日差しではほぼビタミンDが作れないので、冬季は食品やサプリメントでの補給を検討すべきです。
逆に南の地方や夏場は紫外線が強いので短時間で切り上げることが肝心です。肌に軽く赤みが出る手前の「ほんのり温かい」くらいが目安と考えると良いでしょう。
食事とサプリメントによる補給
食品からの摂取
ビタミンDは食事からも摂取できますが、残念ながら自然の食品でビタミンDを豊富に含むものは多くありません。
主なものは魚です。特に脂ののった魚(鮭、サバ、イワシ、マグロなど)や魚の肝油はビタミンDが豊富です。例えばサケやサンマには100gあたり数百IU(数μg)ものビタミンDが含まれます。
またキノコ類もビタミンD₂を含みます。干しシイタケやキクラゲは日光に当てて乾燥させることでビタミンD含有量が増えます。卵黄や牛レバーにも少量ありますが微々たるものです。
現実的には食事だけで必要量を満たすのは難しいことが多く、実際に日本人の平均摂取量は目安量に達していないとの調査もあります。
サプリメントの活用
そこでサプリメントの活用も選択肢になります。ビタミンD₃のサプリメントは安価で入手しやすく、1粒で1000IU(25μg)や2000IUといった製剤が多く販売されています。
ビタミンDは脂溶性なので、食後の摂取が望ましいでしょう。さらに最近は牛乳やシリアル、オレンジジュースなどにビタミンDを強化添加した食品も増えています。こうした強化食品を利用するのも効果的な方法です。
適切な摂取量と上限
日本人の食事摂取基準では、成人で1日あたり8.5μg(約340IU)がビタミンDの目安量とされています。一方、米国NIHのデータでは4歳以上の1日価値(DV, Daily Value)は20μg(800IU)とされています。
高齢者では骨折予防のために1日800〜1000IUを摂るべきという意見もあります。いずれにせよ数百IU程度を毎日摂取するのが基本で、サプリメントで補う場合は1000IU程度が一つの目安になるでしょう。
ただし、摂りすぎにも注意が必要です。ビタミンDは摂りすぎると血中カルシウムが上がりすぎて高カルシウム血症を起こす危険があります。症状として食欲不振や吐き気、腎結石などが起こりえます。
耐容上限量は成人では1日100μg(4,000IU)と定められています。これは安全とされる上限で、これ以上を長期間摂るのは避けるべきです。通常の食事でここまで届くことはまずなく、サプリメントを極端に大量に摂らない限り中毒はまれですが、用量を守って適切に活用することが大切です。
40代以降の方へ「再生医療との相乗効果」
40代以降の皆さんは、健康寿命やアンチエイジングに関心が高まる時期です。関節の痛みや骨の弱まりを感じ始めて、再生医療(幹細胞治療)による関節治療などに興味を持たれる方も多いでしょう。
そのような先端医療を検討する前提として、ぜひビタミンDなど基礎的な体の土台を整えていただきたいと思います。
例えば膝関節の再生医療を受ける方でも、骨や筋肉が極端に弱っていては十分な効果を得にくい可能性があります。ビタミンDを適正に保つことは、骨密度を守り、筋力低下を防ぎ、転倒による骨折を防ぐ基本的な対策なのです。
また最近の研究では、ビタミンDが炎症を抑え組織修復を助ける作用も示唆されています。つまりビタミンDは体の「治る力」を底上げしてくれる存在かもしれません。
日常生活への取り入れ方
ビタミンDは「お金も手間もそれほどかからずにできる自己投資」と言えます。食事に気をつけ、適度な日光浴を生活に取り入れる。そして不足気味であればサプリメントを賢く使う。
この習慣だけでも5年後、10年後の健康に大きな差がつくでしょう。骨の健康、筋力、免疫、そしておそらくは長寿にも関わってきます。
医療機関では血中ビタミンD濃度の検査も行えますので、不足している方にはサプリメント指導などのアドバイスを受けることも可能です。せっかく最新の再生医療を受けるのであれば、ビタミンDを含めた栄養状態も整えて相乗効果を狙いたいものです。
よくある質問(FAQ)
Q1. 日焼け止めを毎日塗っていると、ビタミンDは不足しますか?
A. 日焼け止めは紫外線を遮断するため、ビタミンD合成が減少する可能性があります。毎日欠かさず塗る方は、食事やサプリメントで意識的にビタミンDを補うことが推奨されます。
Q2. ガラス越しの日光浴でもビタミンDは作られますか?
A. ガラスはビタミンD合成に必要なUVBをほぼ遮断するため、ガラス越しではビタミンDは作られません。直接、屋外で短時間の日光浴を行うのが効果的です。
Q3. 肌の老化やシミが怖くて紫外線を避けています。どうすればよいですか?
A. 紫外線対策は重要ですが、正午前後に5〜15分程度の短時間だけ腕や脚などを日に当てることで、肌の老化リスクを最小限に抑えつつビタミンD合成ができます。あとは食事やサプリメントで補うと良いでしょう。
Q4. 曇りの日や冬でもビタミンDは作られますか?
A. 曇りの日でも紫外線は一部届きますが、合成効率は大きく下がります。また冬は太陽の角度が低く、特に日本の北部ではほとんどビタミンDが作られません。冬季は食事やサプリメントでの補給が推奨されます。
Q5. ビタミンDのサプリメントは毎日摂ったほうが良いのでしょうか?
A. 食事だけで十分に摂れない場合は毎日の摂取を推奨します。特に冬季や日焼けを避ける習慣がある方、高齢者はサプリメントでの補充を日課にするとよいでしょう。
Q6. 高齢者はなぜビタミンDが不足しやすいのですか?
A. 加齢とともに皮膚でのビタミンD合成能力が低下し、さらに外出頻度の減少や食事量の減少によって不足しやすくなります。そのため高齢の方は特に意識的な補充が必要です。
Q7. ビタミンDを摂り過ぎるとどんな副作用がありますか?
A. 過剰摂取すると高カルシウム血症を引き起こし、吐き気や食欲不振、腎臓障害や結石の原因になることがあります。サプリメントの摂取は推奨量を守り、上限(4000IU/日)を超えないようにしましょう。
Q8. 日焼け止めの「PA+++」という表記は何を意味しますか?
A. 「PA」は紫外線の中でも肌の奥まで届くUV-Aを防ぐ能力を表します。+の数が多いほどUV-A防御効果が高く、肌の老化防止に効果的です。
Q9. 肌が色黒の人と色白の人でビタミンD合成に違いはありますか?
A. はい。肌が色黒の人(メラニンが多い方)は紫外線を遮る効果があるため、色白の人よりも数倍の紫外線量や時間が必要になります。
Q10. 医療機関でビタミンD不足の検査は受けられますか?
A. はい。血液検査で簡単に血中ビタミンD濃度を調べることができます。心配な方は一度受診して、専門的なアドバイスを受けることをおすすめします。
まとめ
ビタミンDは現代人の多くが不足しがちな重要な栄養素です。骨の健康、筋力維持、免疫機能の調整など、健康な加齢にとって欠かせない役割を担っています。
紫外線との関係では、ビタミンD合成に必要なUVBを適度に確保しつつ、肌老化や皮膚がんのリスクを最小限に抑えることが重要です。正午前後の短時間の日光浴を基本とし、不足分は食事やサプリメントで補うのが現実的なアプローチと言えるでしょう。
特に40代以降の方々には、先端医療への関心と並行して、こうした基礎的な健康管理にも目を向けていただきたいと思います。適度に太陽と仲良くなって、元気な毎日を送りましょう。
参考文献
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