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2025.05.10
コラム

膝関節症に効く「再生医療」完全ガイド|自己脂肪幹細胞・PRP・APS・エクソソーム徹底比較

切らない膝治療とは?メスを使わない最新の再生医療を徹底解説

最近、メスを使わずに膝の痛みや軟骨のすり減りを治療できる「切らない膝治療」が注目されています。従来は痛み止めやヒアルロン酸注射などの保存療法で効果がなければ手術しか選択肢がありませんでした。しかし近年、その中間に位置する再生医療による新しい治療法が登場しつつあります。これらは自身の細胞や血液を利用して膝関節の自己修復力を引き出す最新の治療法で、入院やメスを必要としないのが特徴です。

本記事では、再生医療による代表的な膝の治療法4種類(自己脂肪由来幹細胞治療、幹細胞上清液(エクソソーム)治療、PRP治療、APS治療)について、仕組みや効果、エビデンス、適した患者さん、そして手術と比べたメリット・デメリットを分かりやすく解説します。それぞれの治療を比較した表も載せていますので、ぜひ参考にしてください。

自己脂肪由来幹細胞治療(脂肪から取った幹細胞の注射)

自己脂肪由来幹細胞治療とは、自分のお腹や太ももなどから少量の脂肪を採取し、そこに含まれる間葉系幹細胞(MSC)を取り出して膝関節に注入する再生医療です。採取した幹細胞は必要に応じて培養(増殖)し、数を増やしてから注射します。幹細胞は体を作るタネのような細胞で、軟骨など様々な組織に分化できる潜在能力があります。

また、注射された幹細胞は、傷んだ軟骨などの組織に集まって、関節内で炎症を抑える物質(成長因子などのサイトカインやエクソソーム)を分泌したりして組織の再生を助ける(ホーミング効果、パラクライン効果)と考えられています。例えると、痛んだ芝生に新しい種をまき、水や肥料(成長因子)を与えて芝を再生させるようなイメージです。

効果・エビデンス
脂肪由来MSCの膝への関節内注射により、痛みの軽減や膝の機能改善が報告されています。複数の臨床試験をまとめた2025年のメタ分析では、MSC注射を受けたグループは受けていないグループに比べ、治療6か月後と12か月後の膝痛や機能スコア(WOMACやVAS、KOOS)が有意に改善しました。

痛みの改善効果が年単位と長期的な効果が期待できるのが特徴です。特に脂肪由来のMSCを高用量で用いた群で効果が大きく、安全性も対照群と差がないことが示されています。こうした研究結果から、中等度までの変形性膝関節症ではMSC療法により痛みと機能障害が軽減し、生活の質が向上することが期待できます。また、画像検査では軟骨の進行抑制や骨の変化改善が示唆された報告もあり、傷んだ軟骨や半月板の一部再生につながる可能性も期待されています(※まだ研究段階です)。

適応となる患者
変形性膝関節症の進行期(X線KLグレード2~3/1~4まで4が最も重症)で、保存療法では痛みが治まらず手術は避けたいという方に適しています。比較的若い世代~中高年(40~70代)で軟骨が一部残っている場合に効果を実感しやすいとされています。

重度に軟骨がすり減り骨同士がぶつかっている末期の膝(KLグレード4)では効果が限定的で、人工関節など手術が検討されるケースが多いです。また、自分の脂肪を採取するため、採取部位に切開が可能な健康状態であることも条件になります。

  • メリット: 自分の細胞を使うため拒絶反応がなく安全性が高いと考えられています。関節の軟骨修復や炎症抑制といった根本治療の期待があり、将来的に関節の状態を良くする可能性があります。手術に比べ侵襲が小さく、注射後は基本的に当日帰宅が可能です。
  • デメリット: 保険適用外の自由診療で培養の費用がかさみ費用が高額(100万円規模)になります。脂肪採取のために局所麻酔下での小手術(脂肪吸引)が必要です。効果が現れるまで数週間~数か月かかることがあります。また、特に2回目以降注射後に一時的に膝が腫れたり、痛みが増す場合がある点にも留意が必要です。

幹細胞上清液(エクソソーム)治療(培養幹細胞液の注射)

幹細胞上清液(エクソソーム)治療は、培養した幹細胞から分泌された有効成分のみを関節に注射する再生医療です。上清液とは、幹細胞を培養した培養液から細胞を除いた透明な液体部分のことを指します。ここには幹細胞が放出した成長因子やサイトカイン、エクソソームといった生理活性物質が豊富に含まれています。要するに、「幹細胞そのもの」ではなく「幹細胞が作り出したスープ」を患部に注入する治療と言えます。

これにより、幹細胞を入れなくても幹細胞が分泌する有用な物質だけで組織修復を促そう(パラクライン効果)というアプローチです。例えば、幹細胞由来のエクソソーム(細胞外小胞)は軟骨修復を促進し、滑膜炎を抑制し、骨のリモデリングを調節することで関節を保護する働きが報告されています。

効果・エビデンス
幹細胞上清液(エクソソーム)(いわゆる幹細胞培養液)を用いた治療はまだ新しく、大規模なヒト臨床試験の数は限られています。しかし少人数の予備的な臨床研究や症例報告では、有望な結果がいくつか示されています。例えば、米国で行われたパイロット試験では骨髄由来MSCの培養上清(商品名ExoFlo)を膝に2mL注射したところ、6か月後に痛みが有意に軽減し関節機能が改善したと報告されています。この研究では安全性も確認され、MSC由来エクソソーム製剤は膝OAに対し有効であったとされています。

また日本国内の報告では、幹細胞上清液(エクソソーム)の関節注射後に「膝の腫れが引き、痛みの頻度が減った」「階段の昇り降りが楽になった」といった患者さんの声が紹介されています。こうしたケースでは数週間~1か月おきに数回注射することで徐々に症状が改善し、日常生活動作が向上したとされています。

一方、厳密なプラセボ対照試験はまだ少なく、効果の客観的証明はこれからの段階です。全体として、幹細胞上清液(エクソソーム)治療は「有望だがエビデンス不足」の段階といえます。ただ、動物実験レベルでは軟骨の変性抑制や再生促進が繰り返し示されており、理論的にもMSCが分泌する物質で軟骨や半月板、靭帯の修復を助けられる可能性があります。現在も国内外で臨床研究が進行中であり、今後有効性を裏付けるデータが蓄積されることが期待されています。

適応となる患者
幹細胞上清液(エクソソーム)治療は、自身の細胞採取が難しい場合や、より手軽に再生医療を受けたい場合の選択肢となります。例えば高齢で手術リスクが高い方や、脂肪採取に抵抗がある方でも受けやすいメリットがあります。変形性膝関節症の初期~中期で炎症症状を伴う膝痛に適応されることが多く、他の治療との併用も検討されます。

また、リハビリテーション(運動療法)と組み合わせて関節機能の改善を図るケースもあります。月に1回程度の頻度で3~5回の注射を行うプロトコルが用いられることがあり、徐々に組織修復を促していきます。対象は主に中高年の膝OA患者ですが、スポーツによる軟骨障害や半月板損傷の治癒促進目的で用いる例も出てきています。

  • メリット: 患者自身から細胞を採取する必要がなく、身体的負担が極めて少ない治療です。注射のみで済み入院も不要なため、ご高齢の方にもトライしやすくなっています。炎症を抑えて痛みを和らげる作用に加え、組織再生のシグナルも含まれるため、痛みの改善と関節機能の向上が期待できます。また副次的に関節液の潤滑改善や軟骨代謝の正常化など、関節環境を整える効果も見込まれます。何より「切らない治療」の中でもっとも侵襲が低く、治療当日に開始できる手軽さは大きな利点です。また、注射後の一時的な腫れや痛みが少ないのも特徴です。
  • デメリット: 幹細胞上清液(エクソソーム)製剤も保険外診療のため費用負担が大きいです(総額で数十万円程度、回数による)。また治療自体が新しく、信頼できる大規模臨床データが不足しています。幹細胞上清液治療は“切らない再生医療”の中でもっとも負担が少ない反面、同じ名前でも品質が一定とは限らないというデメリットがあります。まるで毎回味にムラがあるスープのように、培養ごとの成分差が治療効果や安全性を左右します。治療を検討する際は、製造管理と品質保証がしっかりした施設かどうかを見極めることが最も大切です。

PRP治療(多血小板血漿注射)

PRP治療とは、自分の血液から血小板を高濃度に濃縮した多血小板血漿(Platelet-Rich Plasma=PRP)を関節に注射する療法です。血小板には本来、ケガを治す成長因子(グロースファクター)が豊富に含まれており、これを患部に集中的に届けることで自己治癒力を高める狙いがあります。

いわば血液由来の「治癒ブースター」を患部に注入するイメージで、ケガの治りを早めたり炎症をしずめたりする効果が期待されます。PRPは患者さん本人の血液(20~30cc程度)を採取し、専用の遠心分離器で血小板を濃縮して作製します。出来上がったPRPを膝関節内に注射する工程は数十分で完了し、日帰りで受けられる手軽な治療です。効果は膝だけにとどまりません。

野球の田中将大投手や大谷翔平選手などが PRP 注射を肘に行い手術を回避・先送りしたことが大きく報道されました。また、ゴルフ界のタイガー・ウッズ選手もひざや腰のリハビリに PRP を取り入れたと明かし、世界的ニュースとなりました。

効果・エビデンス
PRPは膝の痛み軽減や可動域の改善に効果があるとする研究が数多く報告されています。特に変形性膝関節症の初期~中期に対する有効性が注目されており、ヒアルロン酸注射より症状が改善したとの報告もあります。最近のメタ分析でも、PRP注射を受けた群は対照群と比べて膝の痛み(VAS)や機能スコア(KOOS、WOMAC)が有意に改善したと結論づけられています。具体的には、PRPを注射した膝では疼痛スコアがプラセボより平均1ポイント程度低下し、日常生活動作や生活の質の指標も有意に向上しました。また炎症を抑える作用で関節液の減少や滑膜炎の改善がみられるケースもあります。

しかし一方で、PRPの効果については議論もあります。2021年に発表された約300例を対象とした厳格な臨床試験(RESTORE試験)では、PRPを3回注射した群とプラセボ(生理食塩水)注射群で1年後の痛み改善度に大差がなく、統計的に有意な差は認められませんでした。この研究では軟骨の厚みなど構造変化にも差がなく、著者らは「膝OAにPRPを推奨する根拠は不十分」と結論づけています。

このように、PRPの有効性については肯定的な結果と否定的な結果が混在しており、現在も研究が続けられています。総じて見ると、軽度~中等度の膝OAに対しては多くの患者で痛みが和らぎ機能改善が得られるものの、効果の大きさや持続期間は個人差があり、一部ではプラセボ同等との報告もあるという状況です。

適応となる患者
変形性膝関節症の初期~中期(KLグレード1~3)で、膝に炎症や痛みがある方に適しています。レントゲンで軟骨がまだ一部残っているような段階であれば、PRPにより関節の状態が改善しやすい傾向があります。保存療法(リハビリやヒアルロン酸注射)で効果が不十分な場合の次の選択肢として検討されます。また、スポーツによる膝の軟骨傷害や半月板損傷の痛みに対して用いられることもあります。比較的若年~中年の患者さんで、将来の関節手術を先送りしたい場合にも試みられます。ただし重度の骨変形がある場合は効果が限定的です。

  • メリット: 患者さん自身の血液を使うため副作用やアレルギーが極めて少なく安全です。処置は短時間で終了し、注射後すぐ歩いて帰宅できます。入院不要で体への負担が少ない日帰り治療です。さらに何度か繰り返し治療することで効果を持続・向上させることも可能で、一部では軟骨の保護効果も報告されています。ヒアルロン酸など従来の注射に比べ痛みの軽減期間が長い傾向があり(半年~1年程度)、生活の質の向上が期待できます。
  • デメリット: 自由診療のため費用は自己負担(1回あたり数万円~十数万円程度)となります。症状によっては複数回の注射(例:2~3回)が必要な場合もあります。効果には個人差があり、特に重度の関節症には効果が限定的です。注射後に一時的に膝が腫れたり、痛みが増す場合がある点にも留意が必要です。

APS治療(自己タンパク質溶液注射)

APS治療(自己タンパク質溶液療法)とは、患者さん自身の血液から作製する濃縮タンパク質製剤を関節に注射する再生医療です。一見PRPと似ていますが、APSでは特に炎症を抑えるタンパク質(サイトカイン)を高濃度に含む点が特徴です。具体的には、血液中の白血球や血小板を特殊なキットで処理し、関節炎の原因となる炎症性物質(例えばインターロイキン-1)をブロックする抗炎症タンパク質(例えばIL-1受容体拮抗剤や可溶性TNF受容体)を多く含む溶液を抽出します。出来上がった自己タンパク質溶液(APS)を膝に注射することで、関節内の炎症を鎮め軟骨の分解を抑制しようとするものです。いわば「炎症の火消し役」を自分の血から作って注入する治療です。

効果・エビデンス
APS療法は欧米を中心に開発が進んでおり、初期の臨床研究では長期にわたる痛みの軽減が報告されました。たとえば2018年のランダム化比較試験では、単回のAPS注射から12か月後における膝痛スコアの改善率が、APS群で65%、生理食塩水群で41%とAPS群が有意に勝ったと報告されています。

この研究では有害事象も差がなく、安全に痛みと機能を改善する結果となりました。さらに、その後の観察研究ではAPS注射の効果が1回の注射で3年後まで持続する症例もあることが示されています。実際、APSを注射した患者では1年後に痛みや関節機能が大幅に改善し、その改善の多くが3年後も残存していたとの報告があります。こうしたことから、「1回の注射で長く効く切らない治療」として期待が高まりました。

しかし最新の研究では異なる結果も出ています。2024年に発表された比較試験では、APS注射群とプラセボ注射群で1年後の症状スコアに差がなく、さらに驚くべきことに痛みの指標ではAPS群の方がプラセボ群より悪化していたとの報告がなされました。この試験でも重篤な副作用はありませんでしたが、少なくとも測定期間内で炎症を抑える明確な効果は示されなかったことになります。なぜ初期研究と結果が異なるのかは明確ではありませんが、患者数や対象の違い、評価項目の差などが考えられます。

現在、APSの有効性については賛否両論あり、更なる大規模研究が求められています。現時点では、「効く人には劇的に効くが、そうでないケースもある」というのが率直なところかもしれません。

適応となる患者
APS治療は中等度の変形性膝関節症(KLグレード2~3)で、炎症(腫れや熱感)を伴う膝の痛みがある方に検討されます。保存療法やヒアルロン酸・PRP注射で効果不十分なケースで、手術を避けたい50~70代の患者さんが対象となることが多いです。軟骨の摩耗が中程度で、まだ人工関節手術をするには早いと判断される場合に、痛み緩和と進行抑制を期待して行われます。また、他の再生医療(PRPや幹細胞治療)との違いを求める患者さんにも選択されることがあります。ただし重度の関節破壊がある場合は効果が限られます。

  • メリット: 単回の注射で比較的長期の効果が得られる可能性がある点が最大のメリットです。治療は日帰りで完了し、複数回通院の手間が少なくて済みます。炎症を強力に抑える作用が期待できるため、関節の腫れや熱感の早期軽減に有用とされています。また、痛みが和らぐことでリハビリ訓練が進めやすくなり、筋力向上によるさらなる症状改善も見込めます。
  • デメリット: PRP同様に保険適用外の自費治療で費用は高額(数十万円程度)です。国内では専用キットの承認がまだであるため、一部クリニックで限定的に行われているのが現状です。効果には個人差が大きく、すべての患者に有効とは限らない点もデメリットです。また、PRPと比較して処理工程が複雑なため採血量も多く必要になります(※貧血の方などは注意)。理論上は軟骨保護効果が期待されるものの、軟骨そのものを再生する証拠はまだ不十分であり、症状の緩和が主な目的となります。最新の研究では効果が否定的な結果も出ており、確実な治療とまでは言えない点には留意が必要です。注射後に一時的に膝が腫れたり、痛みが増す場合がある点にも留意が必要です。

4つの治療法の比較

以上の4つの再生医療的アプローチについて、主な作用や効果の持続期間、費用感、施術時間や入院の有無をまとめると次の表のようになります。それぞれ一長一短があり、患者さんの膝の状態や希望に応じて選択肢が異なります。「切らない膝治療」と一口に言っても、アプローチの違いによって得られる効果や負担が変わりますので、医師と十分に相談して適した方法を選ぶことが大切です。

再生医療4つ治療法比較
再生医療4つ治療法比較

また、おすすめの患者さんの対象を比較すると次のようになります。

  • 自己脂肪由来幹細胞治療
    保存療法では痛みが続くけれど人工関節はまだ早い、中等度(KL2〜3)の変形性膝関節症を“自分の脂肪細胞の力”で根本から良くしたい方におすすめです。
  • 幹細胞上清液治療(エクソソーム)
    脂肪採取などの負担は避けたいものの、体への優しい再生医療で関節の炎症と痛みを落ち着かせたい初〜中期の膝関節症の方におすすめです。
  • PRP治療(多血小板血漿)
    軽度〜中等度の膝痛やスポーツによる膝のトラブルを、短時間の日帰り注射で手軽に和らげたい方に向いています。
  • APS治療(自己タンパク質)
    PRPなど従来の注射では効果が足りず、腫れや炎症が強い中等度(KL2〜3)の変形性膝関節症で、できるだけ長く痛みを抑えたい方に適しています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 「切らない膝治療」とは何ですか?
「切らない膝治療」とは、手術をせずに膝の痛みを改善する再生医療のことです。幹細胞や血液由来成分などを注射することで、関節の自己修復力を引き出して痛みを和らげ、軟骨の状態改善を目指す治療法です。

Q2. 自己脂肪由来幹細胞治療は痛みが強いですか?
脂肪を採取する際は局所麻酔を使用するため、ほとんど痛みはありません。ただ、採取後に軽度の腫れや違和感が一時的に現れる場合があります。膝への注射時も軽い痛みはありますが、多くの場合はすぐに収まります。

Q3. 幹細胞上清液(エクソソーム)治療の効果はどれくらい持続しますか?
個人差がありますが、一般的には1回の治療で数ヶ月程度の効果が期待できます。継続的に数回行うことで、より長期間の改善効果を目指すことができます。

Q4. PRP治療はどのような方に適していますか?
PRP治療は軽度~中等度の膝の痛みがあり、ヒアルロン酸注射など従来の治療法では十分な改善が得られない方に向いています。また、スポーツによる膝の軟骨損傷や半月板損傷にも効果的です。

Q5. APS治療とPRP治療の違いは何ですか?
APS治療はPRPよりも特に抗炎症作用が強化された治療法であり、炎症による膝の痛みが強い方に適しています。APSの方が1回の治療で長期間の効果を持続させやすい傾向がありますが、費用は高くなります。

Q6. 再生医療は保険適用ですか?
現在、日本では幹細胞治療やPRP・APSなど再生医療は保険適用外の自由診療です。そのため費用は患者さん自身の負担となります。詳しい費用はクリニックによって異なるので、事前に確認しましょう。

Q7. これらの治療は何歳くらいまで受けられますか?
明確な年齢制限はありませんが、主に40代~70代くらいまでの方が多く受けられています。特に軟骨がまだある程度残っている段階で治療すると効果を実感しやすくなります。

Q8. 治療後に注意すべきことはありますか?
治療直後は激しい運動や負担の大きい活動は控え、安静にして過ごすのが望ましいです。また、治療効果を高めるためにリハビリテーションや筋力トレーニング、体重管理を並行して行うことが推奨されています。

Q9. 再生医療の効果が現れるまでどのくらいかかりますか?
治療法によって異なりますが、PRPやAPS、幹細胞上清液では数週間~数ヶ月程度で効果が現れる場合が多いです。一方、自己脂肪由来幹細胞治療では数ヶ月かけて徐々に効果を感じることが一般的です。

Q10. 再生医療で軟骨は完全に元通りになりますか?
現在の再生医療では、完全に元通りになる保証はありません。特に中等度~重度の膝関節症では軟骨再生よりも痛みの緩和や炎症抑制が主な目的となります。ただし、初期~中期段階の軟骨であれば一部再生が見込める可能性があります。

まとめ

膝の痛みに対する「切らない再生医療」は、手術以外の新たな選択肢として注目され、ここで紹介したように多様なアプローチが登場しています。自己脂肪由来の幹細胞や血液由来のPRP/APS、さらには幹細胞培養上清と、それぞれ身体の持つ修復力を引き出すことで、軟骨のすり減りや炎症を改善しようとするものです。患者さんにとってメスを入れずに済むこれらの治療は大変魅力的ですが、万能ではないことも理解しておきましょう。効果の出方や持続期間には個人差があり、エビデンスも発展途上です。現在は「痛みが和らぎ日常生活が楽になること」を主な目的として位置づけられ、軟骨そのものの再生も今後さらに研究が進めば一層期待できるでしょう。

大切なのは、患者さん一人ひとりの状態に合った治療を選択することです。膝の変形度合いや症状、年齢、ライフスタイル、費用面の許容などを総合的に考慮して、主治医と十分に相談してください。また、再生医療はあくまで治療の一環であり、痛みの軽減後もリハビリテーション(運動療法や筋力トレーニング)や体重管理を継続することが将来の膝の健康につながります。これら最先端の治療法の普及により、「もう歳だから仕方ない」「手術しかない」とあきらめていた膝痛に新しい希望が生まれつつあります。最新の知見を取り入れながら、あなたにとって最適な膝治療を見つけ、いつまでも自分の膝で歩ける生活を目指しましょう。

参考文献
1. Bennell KL ら, Effect of Intra-articular Platelet-Rich Plasma vs Placebo Injection on Knee Osteoarthritis (RESTORE試験), JAMA 2021
2. Ross M ら, The effect of intra-articular autologous protein solution on knee osteoarthritis symptoms, Bone Joint J 2024
3. Cao M ら, Efficacy and safety of mesenchymal stem cells in knee osteoarthritis: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials, Stem Cell Res Ther 2025
4. Luo D ら, Mesenchymal stem cell-derived exosomes as a promising cell-free therapy for knee osteoarthritis, Front Bioeng Biotechnol 2024

                           

執筆者

若林雄一

若林 雄一

セルグランクリニック 院長

医学博士
アメリカ再生医療学会専門医
放射線診断専門医
核医学専門医

【略歴】                                        
アメリカ再生医療学会認定専門医資格を有し、神戸大学病院やアメリカ国立衛生研究所(NIH)で培った経験を基に、患者様一人ひとりのニーズに応じたオーダーメイド医療を提供しています。

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