再生医療とは何か──「治す」から「再生する」へ
再生医療という言葉を耳にする機会が増えました。
しかし、その実態を正確に理解している方は意外と少ないのではないでしょうか。
再生医療とは、患者さん自身の細胞や組織を活用し、損傷した部位の修復・再生を目指す医療技術です。従来の治療法が「症状を抑える」ことに重点を置いていたのに対し、再生医療は「失われた機能を取り戻す」という根本的なアプローチを可能にします。
たとえば、変形性膝関節症で軟骨がすり減ってしまった場合、これまでは痛み止めやヒアルロン酸注射で症状を和らげるか、最終的には人工関節に置き換える手術が選択肢でした。ところが再生医療では、患者さん自身の脂肪から採取した幹細胞を培養し、膝関節に投与することで、軟骨の修復や炎症の抑制を促すことができます。
この治療法は、体が本来持っている「自己修復能力」を最大限に引き出すものであり、拒絶反応や副作用のリスクが極めて低いという特徴があります。

再生医療の歴史は1970年代にさかのぼります。当時、分化細胞の培養技術が確立され、皮膚や軟骨の再生が可能になりました。その後、1998年にヒトES細胞が樹立され、2006年には日本の山中伸弥教授がマウスiPS細胞の作製に成功。翌年にはヒトiPS細胞も樹立され、再生医療は飛躍的な進化を遂げました。
現在、日本では厚生労働省が「再生医療等安全性確保法」を制定し、安全性と有効性を担保する仕組みが整備されています。2024年4月時点で承認されている再生医療等製品は19種類に上り、臨床研究も活発に進められています。
再生医療の3つの大きなメリット
根本的な治療が期待できる
再生医療の最大の魅力は、「対症療法」ではなく「根本治療」を目指せる点にあります。
従来の医療では、痛みを抑える薬や一時的な処置で症状を和らげることが中心でした。しかし、病気の原因そのものを取り除くことはできず、多くの場合、症状は再発したり進行したりしていました。
再生医療では、幹細胞が持つ「自己複製能力」と「多分化能」を活用します。幹細胞は自ら増殖し、さまざまな種類の細胞に変化できる特性を持っています。この能力により、損傷した組織や臓器を細胞レベルで修復し、失われた機能を取り戻すことが期待できます。
たとえば、糖尿病の患者さんでは、膵臓のβ細胞が破壊されてインスリンが分泌されなくなります。幹細胞治療では、β細胞の再生を促し、自然なインスリン分泌能力の回復を目指します。これは、単に血糖値を下げる薬を飲み続けるのとは根本的に異なるアプローチです。
拒絶反応や副作用が少ない
再生医療の多くは、患者さん自身の細胞を使用する「自家移植」です。
自分の細胞を体内に戻すため、免疫系が「異物」として認識することがありません。その結果、臓器移植などで問題となる拒絶反応のリスクが極めて低くなります。
また、薬物療法で懸念される副作用も少ないのが特徴です。長期間にわたるステロイド使用や免疫抑制剤の投与は、感染症リスクの上昇や骨粗しょう症などの副作用を伴います。一方、自己細胞を用いる再生医療では、こうした心配がほとんどありません。
臍帯などの他人の細胞(他家細胞)を使用する場合は、拒絶反応のリスクがゼロではありません。この点が、自己細胞を使う大きなメリットになります。
身体への負担が少ない
外科手術では、患部を切開し、長時間にわたる処置が必要になることがあります。
術後の回復にも時間がかかり、身体へのダメージは決して小さくありません。特に高齢の患者さんや基礎疾患を持つ方にとっては、手術そのものがリスクとなる場合もあります。
再生医療では、脂肪採取や血液採取といった比較的簡単な処置で細胞を取得できます。採取量もごくわずかで済むため、身体への負担は最小限です。多くの場合、日帰りで処置が完了し、翌日から通常の生活に戻ることができます。
このように、再生医療は「低侵襲」な治療法として、患者さんのQOL(生活の質)を保ちながら治療を進められる点が大きな利点です。

再生医療のデメリットと注意すべき点
費用が高額になる可能性
再生医療の最大の課題の一つが、治療費の高さです。
現在、多くの再生医療は自由診療として提供されており、保険適用外となっています。そのため、治療費は全額自己負担となり、数十万円から数百万円に及ぶケースも珍しくありません。
たとえば、自己脂肪由来幹細胞治療では、脂肪採取、細胞培養、投与という一連のプロセスに高度な技術と設備が必要です。特に細胞培養は、厚生労働省認定の施設で厳格な品質管理のもとで行われるため、コストがかかります。
ただし、一部の再生医療は保険適用されています。重症熱傷に対する自家培養表皮移植や、変形性膝関節症に対する自家培養軟骨移植などがその例です。今後、臨床データが蓄積され、有効性が広く認められれば、保険適用の範囲が拡大する可能性もあります。
また、医療費控除の対象となる場合もあるため、確定申告時に申請することで、一部の費用が返却されることがあります。
効果を100%保証するものではない
再生医療は、すべての患者さんに同じ効果をもたらすわけではありません。
幹細胞の再生能力や治療効果は、患者さんの年齢、健康状態、疾患の進行度によって大きく異なります。たとえば、変形性膝関節症の場合、軟骨がまだ一部残っている軽度から中等度の患者さんでは高い効果が期待できますが、重度に進行し軟骨がほとんど失われている場合は、効果が限定的になることがあります。
また、幹細胞の質も重要な要素です。加齢とともに幹細胞の増殖能力や分化能力は低下するため、高齢の患者さんでは若年者に比べて効果が出にくい傾向があります。
こうした個人差を踏まえ、治療前には医師による詳細な診察と検査が必要です。CT・MRI画像や血液検査の結果をもとに、再生医療が適しているかどうかを慎重に判断することが重要です。
治療を受けられるクリニックが限られる
再生医療は、どこの医療機関でも受けられるわけではありません。
厚生労働省の「再生医療等安全性確保法」に基づき、再生医療を提供する医療機関は、特定認定再生医療等委員会の審査を経て、治療計画を届け出る必要があります。この手続きをクリアした施設のみが、合法的に再生医療を提供できます。
しかし、すべてのクリニックがこの基準を満たしているわけではありません。中には、科学的根拠が不十分な治療を高額で提供する施設も存在します。こうした施設では、安全性や有効性が保証されず、患者さんが不利益を被るリスクがあります。
信頼できるクリニックを選ぶためには、以下のポイントを確認しましょう。
- 厚生労働省に治療計画が届け出されているか
- 医師が再生医療の専門的な知識と経験を持っているか
- 細胞培養施設が国の認可を受けているか
- 治療内容やリスクについて丁寧に説明があるか
- 治療後のフォローアップ体制が整っているか
これらの条件を満たすクリニックであれば、安心して治療を受けることができます。
再生医療で期待できる具体的な治療効果
変形性膝関節症の治療
変形性膝関節症は、加齢や負担の蓄積によって膝の軟骨がすり減り、痛みや腫れが生じる病気です。
従来の治療では、ヒアルロン酸注射や痛み止めで症状を和らげるか、進行した場合は人工関節置換術が選択されてきました。しかし、人工関節には寿命があり、再手術が必要になることもあります。
再生医療では、自己脂肪由来幹細胞やPRP(多血小板血漿)を膝関節に投与することで、軟骨の修復と炎症の抑制を促します。幹細胞が分泌する成長因子やサイトカインが、損傷部位に集まり、組織の再生を助けます。
実際に、当院で治療を受けた患者さんの中には、痛みが大幅に軽減し、階段の上り下りや長時間の歩行が可能になった方が多くいらっしゃいます。手術を避けたい、自分の関節を長く使いたいという方にとって、再生医療は有力な選択肢となります。
糖尿病の再生治療
糖尿病は、膵臓のβ細胞が破壊されてインスリンが分泌されなくなることで発症します。
特に1型糖尿病では、自己免疫反応によってβ細胞がほぼ失われるため、生涯にわたるインスリン注射が必要です。2型糖尿病でも、病気が進行するとβ細胞の機能が低下し、薬物療法だけでは血糖コントロールが難しくなります。
幹細胞治療では、幹細胞が分泌する成長因子が膵臓の血流を改善し、β細胞の再生を助けることが期待されています。また、免疫の異常反応を抑えることで、β細胞の破壊を防ぐ効果も報告されています。
当院で治療を受けた30代女性の症例では、HbA1cが6.8%から5.8%に改善し、薬に頼らずに血糖値を正常範囲に保てるようになりました。若年発症の糖尿病や、薬の副作用で悩んでいる方にとって、幹細胞治療は新たな希望となり得ます。

美容・アンチエイジング
再生医療は、美容分野でも注目されています。
加齢とともに、肌の弾力を保つコラーゲンやエラスチンが減少し、しわやたるみが目立つようになります。従来の美容医療では、ヒアルロン酸注入やボトックス注射で一時的に改善することが中心でした。
幹細胞治療では、患者さん自身の脂肪から採取した幹細胞を顔面に投与することで、線維芽細胞の再生を促し、コラーゲンやエラスチンの産生を活性化します。これにより、肌のハリや潤いが内側から改善され、自然な若々しさを取り戻すことができます。
また、PRP治療も美容分野で広く活用されています。血小板が持つ成長因子が、肌の再生を促し、毛穴の引き締めやくすみの改善に効果を発揮します。
その他の疾患への応用
再生医療は、さまざまな疾患への応用が進んでいます。
神経系疾患では、パーキンソン病やALS(筋萎縮性側索硬化症)に対する幹細胞治療の研究が進められています。幹細胞が分泌する神経栄養因子が、神経細胞を保護し、病気の進行を遅らせる可能性が示されています。
心血管疾患では、心筋梗塞後の心筋再生や、閉塞性動脈硬化症に対する血管再生治療が臨床試験段階にあります。幹細胞が新しい血管の形成を促し、血流を改善することで、症状の改善が期待されています。
免疫系疾患では、関節リウマチやSLE(全身性エリテマトーデス)に対する幹細胞治療が注目されています。幹細胞の免疫調整作用により、自己免疫反応を抑え、炎症を鎮める効果が報告されています。
再生医療を選ぶべきか──専門医が考える判断基準
軟骨や組織がまだ残っている段階
再生医療が最も効果を発揮するのは、損傷した組織がまだ一部残っている段階です。
たとえば、変形性膝関節症では、軟骨が完全に失われる前に治療を開始することが重要です。軟骨が残っていれば、幹細胞が修復を促し、関節の機能を回復させることができます。しかし、軟骨がほとんどなくなり、骨同士が直接こすれ合うような重度の状態では、再生医療の効果は限定的になります。
このため、早期発見・早期治療が鍵となります。膝の痛みや違和感を感じたら、放置せずに専門医に相談することをおすすめします。
手術を避けたい、自分の関節を長く使いたい
人工関節置換術は、重度の変形性関節症に対する有効な治療法ですが、いくつかの制約があります。
人工関節には寿命があり、一般的に15〜20年程度で再置換が必要になることがあります。また、手術後はリハビリに時間がかかり、スポーツや激しい運動が制限される場合もあります。
若年層の患者さんや、活動的な生活を続けたい方にとっては、自分の関節を温存できる再生医療が魅力的な選択肢となります。手術に伴うリスクや入院期間を避けられる点も大きなメリットです。
薬の副作用で悩んでいる
長期間にわたる薬物療法は、副作用のリスクを伴います。
たとえば、糖尿病治療薬のメトホルミンは、消化器症状や倦怠感を引き起こすことがあります。関節リウマチで使用されるステロイドや免疫抑制剤は、感染症リスクの上昇や骨粗しょう症などの副作用が懸念されます。
こうした副作用で日常生活に支障をきたしている方にとって、再生医療は薬に頼らない治療法として有力な選択肢です。自己細胞を用いるため、副作用のリスクが極めて低く、安心して治療を受けることができます。
将来の合併症を予防したい
糖尿病や動脈硬化症などの慢性疾患は、放置すると重篤な合併症を引き起こします。
糖尿病では、網膜症、腎症、神経障害といった三大合併症が問題となります。動脈硬化症では、心筋梗塞や脳卒中のリスクが高まります。
幹細胞治療は、こうした合併症の予防にも効果が期待されています。幹細胞が分泌する成長因子が血管の修復を促し、血流を改善することで、臓器へのダメージを軽減します。早期に介入することで、将来のリスクを大幅に減らすことができます。
再生医療を受ける前に確認すべきこと
クリニックの認可と実績
再生医療を受ける際は、クリニックの信頼性を必ず確認しましょう。
厚生労働省に治療計画が届け出されているか、細胞培養施設が国の認可を受けているかを確認することが重要です。また、医師が再生医療の専門的な知識と豊富な経験を持っているかも重要なポイントです。
当院は、厚生労働省から「第二種・三種 再生医療等提供計画」を取得しており、複数の治療計画が認可されています。院長は、アメリカ再生医療学会専門医の資格を持ち、これまでに3000件以上の幹細胞治療に携わってきた実績があります。
治療内容とリスクの説明
治療を受ける前に、医師から詳細な説明を受けることが不可欠です。
治療の目的、期待される効果、起こりうるリスク、費用、治療後のフォローアップ体制について、納得できるまで質問しましょう。不明点や不安があれば、遠慮せずに医師に相談することが大切です。
信頼できるクリニックでは、患者さんが十分に理解し、納得した上で治療を受けられるよう、丁寧なカウンセリングを行います。
当院では、すでに人間ドックや他院で実施された検査結果(血液検査・画像検査・レポートなど)をお持ちいただければ、それらを医師が丁寧に読み込み評価します。そのうえで、患者さまの症状・既往歴・生活背景まで踏まえた、根拠に基づく個別の治療計画(オーダーメイドプラン)を立案することを大切にしています。
費用と医療費控除
再生医療の費用は、治療内容や投与する細胞数によって異なります。
事前に見積もりを確認し、支払い方法についても相談しておきましょう。また、医療費控除の対象となる場合があるため、領収書は必ず保管し、確定申告時に申請することをおすすめします。
治療後のフォローアップ
再生医療は、治療後の経過観察が重要です。
定期的な診察や検査を通じて、治療効果を確認し、必要に応じて追加治療を検討します。クリニックがしっかりとしたフォローアップ体制を整えているかを確認しましょう。
よくある質問──再生医療への疑問にお答えします
Q1. 再生医療は痛いですか?
脂肪採取や細胞投与の際には、局所麻酔を使用するため、痛みはほとんどありません。採取部位に軽い内出血や違和感が残ることがありますが、数日で自然に治まります。
Q2. 効果はいつから実感できますか?
個人差がありますが、多くの患者さんは治療後早い方で数週間、およそ2〜3ヶ月かけて効果を実感し始めます。神経や組織の再生には時間がかかるため、焦らずに経過を見守ることが大切です。
Q3. 再生医療は何回受ける必要がありますか?
症状や疾患の進行度によって異なります。軽度から中等度の場合は1〜2回で効果が得られることが多いですが、重度の場合は複数回の治療が必要になることもあります。
Q4. 高齢でも治療を受けられますか?
全身状態が安定していれば、高齢の方でも治療を受けることができます。
Q5. 保険は適用されますか?
現在、多くの再生医療は自由診療ですが、一部の治療では保険が適用されます。また、医療費控除の対象となる場合があります。
まとめ──再生医療という新しい選択肢
再生医療は、従来の治療法では限界があった疾患に対して、新たな希望をもたらす医療技術です。
根本的な治療が期待でき、拒絶反応や副作用が少なく、身体への負担も最小限に抑えられるという大きなメリットがあります。一方で、費用が高額であること、効果に個人差があること、治療を受けられる施設が限られることなど、デメリットも存在します。
再生医療を選ぶべきかどうかは、患者さん一人ひとりの状態や希望によって異なります。軟骨や組織がまだ残っている段階、手術を避けたい方、薬の副作用で悩んでいる方、将来の合併症を予防したい方にとっては、有力な選択肢となるでしょう。
治療を検討する際は、信頼できるクリニックを選び、医師と十分に相談することが重要です。治療内容やリスク、費用について納得した上で、最適な選択をしてください。
再生医療は、「治らない」とされてきた病気を「改善できる」可能性を秘めた、未来の医療です。あなたの健康と生活の質を守るために、ぜひ一度、専門医に相談してみてはいかがでしょうか。
大阪・心斎橋の再生医療クリニック「CELL GRAND CLINIC」は、再生医療等安全性確保法に基づき、厚生労働省へ第二種・三種の再生医療等提供計画を届出し、特定認定再生医療等委員会の審査を経たうえで治療を提供する医療機関です(計画番号:PB5240089ほか/PC5250007ほか)。
当院では幹細胞治療を中心に、PRP・エクソソーム(幹細胞培養上清液)・線維芽細胞・NK細胞治療など幅広い再生医療に対応し、症状・既往歴・生活背景をふまえた個別の治療プランをご提案します。幹細胞再生治療では、投与日に合わせた培養と品質管理(生存率・表面抗原の確認等)を重視し、細胞品質の「見える化」に取り組んでいます。
治療の適応、期待できる効果と限界、リスク、費用はカウンセリングで丁寧にご説明します。詳しくはCELL GRAND CLINIC公式サイトをご覧ください。
※本コラムは一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を代替するものではありません。治療の適応や内容は、診察・検査結果等を踏まえて医師が判断します。