再生医療における幹細胞治療とは
近年、医療の世界で大きな注目を集めている「再生医療」。
その中核を担うのが、私たちの体が本来持っている「再生する力」を活用した幹細胞治療です。従来の治療法では対応が難しかった疾患に対して、新たな可能性を提供する画期的なアプローチとして期待されています。
幹細胞とは、体内のさまざまな細胞に変化できる能力を持つ細胞のことを指します。この特性により、傷ついた組織や臓器を修復する可能性があり、加齢や病気で失われた機能を回復する力を持っているのです。
幹細胞治療は、患者様自身の脂肪や骨髄などから採取した幹細胞を培養し、体内に戻すことで損傷した組織の修復を促す治療法です。自分自身の細胞を用いるため、拒絶反応のリスクが低いという大きな利点があります。

幹細胞が持つ驚異的な能力
幹細胞には、他の細胞にはない特別な能力があります。
まず第一に「自己複製能力」です。幹細胞は自分自身を複製して増やすことができるため、少量の採取でも十分な治療効果を得られる可能性があります。
第二に「分化能力」があります。幹細胞は皮膚、筋肉、神経、血管など、さまざまな種類の細胞に変化することができます。この能力により、損傷した組織に応じて必要な細胞を供給することが可能になるのです。
さらに重要なのが「パラクリン効果」と呼ばれる働きです。幹細胞は直接組織に変化するだけでなく、成長因子やサイトカイン、エクソソームなどの生理活性物質を分泌し、近くの細胞の働きを調整・活性化する仕組みです。
その結果、①炎症を抑え・免疫のバランスが整う、②血管が新しくできて血流が改善、③神経の保護・再生が促進、④傷んだ組織の修復が進む、といった効果が起きます。一言で言えば、幹細胞がメッセージで環境を整え、体の“治る力”を底上げする作用です。これらの能力を活用することで、従来の治療法では難しかった根本的な回復を目指すことが可能になります。

幹細胞の種類と特徴
幹細胞には大きく分けて「多能性幹細胞」と「組織幹細胞」の2種類があります。
多能性幹細胞には、受精卵から作られるES細胞や、体の細胞に遺伝子操作を加えて万能性を再現したiPS細胞があります。これらはすべての細胞に分化可能ですが、倫理面や安全性の課題があり、主に研究用途として活用されています。
一方、組織幹細胞は私たちの体に自然に存在しており、皮膚や脂肪、骨髄などに含まれています。分化の範囲は限定的ですが、安全性が高く、現在の幹細胞治療で実際に用いられているのはこちらのタイプです。
特に脂肪組織には幹細胞が1〜10%ほど含まれており、少ない採取量で多くの幹細胞を得られるため、脂肪由来幹細胞が治療に多く用いられています。
幹細胞治療で期待される効果
幹細胞治療は、幅広い疾患や症状に対して応用されています。
整形外科領域では、変形性膝関節症などの関節疾患に対する効果が報告されています。幹細胞の抗炎症作用や組織修復能力により、痛みの軽減や関節機能の改善が期待できます。実際の研究では、幹細胞治療を受けた患者様の痛みスコアが大きく改善し、日常生活動作も向上したという結果が示されています。特に他の治療と違い、軟骨が再生される可能性があることも大きな特徴です。

神経内科領域では、脳梗塞といった脳血管障害の後遺症やアルツハイマー病などの認知機能障害、パーキンソン病などの変性疾患に対する研究が活発にされており、実際の患者さんでも効果が報告されています。幹細胞が分泌する成長因子やサイトカイン、エクソソームが、損傷した脳組織の修復や神経の再生・保護を促す可能性が示唆されています。
慢性疾患への応用
糖尿病や動脈硬化症などの慢性疾患に対しても、幹細胞治療の効果が期待されています。
糖尿病では、幹細胞の免疫調節作用や組織修復能力により、インスリン分泌機能の改善や合併症の進行抑制が期待できます。実際の症例では、幹細胞治療後に血糖値の改善だけでなく、腎機能の回復、潰瘍の改善や手足のしびれの改善が認められたケースも報告されています。
動脈硬化症に対しては、幹細胞が血管の再生を促し、血流改善による代謝の向上が期待されます。これにより、心血管・脳血管疾患のリスク低減につながる可能性があります。
また、慢性疼痛に対しても、幹細胞の抗炎症作用により痛みの軽減が期待できます。従来の鎮痛薬では十分な効果が得られなかった患者様にとって、新たな選択肢となる可能性があります。
美容・アンチエイジング分野での活用
美容医療の分野でも、幹細胞治療は注目を集めています。
しわやたるみなど皮膚の加齢性変化に対して、幹細胞を用いた治療が行われています。幹細胞が皮膚組織の再生を促し、ハリやツヤの改善、リフトアップ効果が期待できます。
AGA(男性型脱毛症)に対しても、幹細胞治療が応用されています。毛髪組織の再生を促すことで、発毛効果が期待されます。
フレイルやプレフレイルという加齢にともなう筋力低下を主体とした活動力低下に対して、幹細胞の効果があったという研究もあり、病気になる前からの全身のエイジングケアとして期待されています。
幹細胞治療の流れと実際の治療プロセス
幹細胞治療は、大きく分けて「採取」「培養」「投与」の3つのステップで行われます。
まず、患者様自身の脂肪や骨髄などから幹細胞を採取します。脂肪由来幹細胞の場合、腹部から少量の脂肪組織を採取するだけで済むため、患者様の負担は比較的軽いと言えます。採取量は培養する場合で約5mL程度です。

次に、採取した組織から幹細胞を抽出し、培養する工程に入ります。厚生労働省から認可を受けた細胞加工施設で、無菌環境下において幹細胞を培養・増殖させます。この段階では、細胞の品質管理や感染防止が徹底され、安全性の高い細胞が用意されます。
投与にかかる期間や細胞をどれくらいまで増やすかは培養施設やクリニックによって異なります。
例えば当院では、細胞培養には初回約6週間かかり、幹細胞を1回の治療で最大2億個まで増やします。
投与方法と治療後の経過
培養された幹細胞は、症状や治療目的に応じた方法で体内に投与されます。
関節疾患の場合は、患部の関節に直接注入する局所投与が行われます。全身的な効果を期待する場合は、静脈点滴による投与が選択されます。投与された幹細胞は、体内で損傷部位に集まり、炎症を鎮め、組織の修復を促します。また、サイトカインなどの生理活性物質を分泌することで、周囲の細胞や血管の再生をサポートします。
治療効果の発現時期は個人差がありますが、多くの場合、治療後1ヶ月頃から痛みの軽減や機能改善が実感できるようになります。効果は治療後も継続して向上し、6ヶ月後にはさらなる改善が期待できます。
治療後は定期的なフォローアップを行い、効果の確認や必要に応じた追加治療の検討を行います。患者様一人ひとりの状態に合わせたオーダーメイドの治療計画を提案することで、最適な治療効果を目指します。
幹細胞治療の安全性と認可制度
再生医療は新しい医療技術であるため、安全性の確保が非常に重要です。
日本では、平成26年11月に「再生医療等の安全性の確保等に関する法律(再生医療等安全性確保法)」が施行されました。この法律により、再生医療を提供する医療機関は、厚生労働省に治療計画を提出し、認定再生医療等委員会による審査を受けることが義務付けられています。
再生医療は、リスクの程度に応じて第一種から第三種までに分類されます。第一種はiPS細胞やES細胞などのリスクが不明または高い細胞を使う治療で研究目的にしか使われないのが現状です。第二種はすでに人で実施された治療で、リスクとしては中等度とされる治療で、自己脂肪由来幹細胞を用いた治療などが該当します。第三種は比較的リスクの低い治療で、PRP治療やNK細胞治療などが含まれます。
再生医療は同じ「第二種」「第三種」に分類される治療であっても、実際に行うときは“病気(適応)ごと”に治療計画を作り、審査を経て実施する必要があります。つまり「幹細胞治療をやっています」と一括りにして、あらゆる症状に同じ手順で提供できるものではありません。
この治療計画を通すには、治療の目的や対象となる疾患、細胞の採取・加工・投与方法、想定される効果とリスク、合併症が起きた場合の対応、フォローアップ方法などを、医学的根拠に基づいて具体的に整理しなければなりません。さらに、実施する医師側の経験・体制(説明と同意の手順、緊急時対応、感染対策、記録管理など)も問われます。なので、幅広い疾患に対応できるように複数の治療計画を整えている施設はまだ多くありません。実際には、多くのクリニックが「慢性疼痛(痛み)」を中心とした治療計画のみで運用しているケースが目立ちます。
だからこそ患者さんが再生医療を検討するときは、料金や治療名だけで判断するのではなく、「自分の病気(または症状)に対して、どの治療計画で、どんな評価とフォロー体制で行うのか」を具体的に確認することが大切です。
例えば当院は、幹細胞治療を中心に第二種で10の治療計画、第三種で3つの治療計画が厚生労働省認可を受けております。再生医療専門医の監修のもと、安全性が確保された治療を提供しています。
治療に伴うリスクと注意点
幹細胞治療は比較的安全性の高い治療法ですが、いくつかのリスクも存在します。
自己由来の細胞を使用するため、拒絶反応のリスクは低いものの、採取時の出血や感染、投与時の一時的な発熱や痛みなどが起こる可能性があります。これらは一般的に軽度で、適切な管理により対処可能です。
また、すべての患者様に同じ効果が得られるわけではありません。疾患の進行度や個人の体質により、効果の程度は異なります。治療前のカウンセリングで、医師が患者様の状態を詳しく評価し、期待できる効果やリスクについて十分に説明します。
クリニック選びも重要なポイントです。厚生労働省の認可を受けた医療機関であること、十分な治療実績があること、細胞培養施設の品質管理が徹底されていることなどを確認することが大切です。
幹細胞治療を検討する際のポイント
幹細胞治療は、従来の治療法で十分な効果が得られなかった方や、根本的な改善を目指したい方に適しています。
特に、変形性関節症で痛みや機能障害に悩まれている方、糖尿病や動脈硬化症などの慢性疾患をお持ちの方、アンチエイジングや美容目的で細胞レベルからのケアを希望される方などに向いています。

医師との相談で確認すべきこと
治療を検討する際は、医師とのカウンセリングで以下の点を確認することが重要です。
まず、ご自身の症状や疾患に対して幹細胞治療がどの程度効果的か、科学的根拠に基づいた説明を受けてください。また、期待できる効果だけでなく、起こりうるリスクや副作用についても十分に理解することが大切です。
治療の具体的な流れ、採取方法、培養期間、投与方法などについても詳しく説明を受けましょう。特に、培養する場合と培養しない場合の違い、それぞれのメリット・デメリットについて理解することが重要です。
費用についても明確に確認してください。幹細胞治療は自由診療のため、医療機関によって費用が異なります。治療費の総額、追加で必要になる可能性のある費用、支払い方法などを事前に把握しておくことが大切です。
治療回数や効果の持続期間についても確認しましょう。症状によっては複数回の治療が必要な場合もあります。また、効果がどの程度持続するのか、維持するために必要なケアについても理解しておくことが重要です。
生活習慣の改善との組み合わせ
幹細胞治療の効果を最大限に引き出すためには、生活習慣の改善も重要です。
適度な運動は、血流を改善し、幹細胞の働きをサポートします。また、バランスの取れた食事は、細胞の再生に必要な栄養素を供給します。十分な睡眠やストレス管理も、免疫バランスを整え、治療効果を高める要因となります。
喫煙や過度の飲酒は、細胞の再生能力を低下させる可能性があるため、控えることが推奨されます。
医師は、患者様一人ひとりの状態に合わせて、最適な生活習慣のアドバイスを提供します。治療と生活習慣の改善を組み合わせることで、より良い効果が期待できます。
幹細胞治療についてより詳しく:https://cellgrandclinic.com/stem_cell/
まとめ:再生医療がもたらす新しい可能性
幹細胞治療は、私たちの体が本来持っている「再生する力」を活用した画期的な治療法です。
従来の治療法では対応が難しかった疾患に対して、根本的な改善を目指すことができる可能性があります。変形性関節症、糖尿病、動脈硬化症などの慢性疾患から、美容・アンチエイジングまで、幅広い分野で応用されています。
治療は、患者様自身の細胞を用いるため安全性が高く、厚生労働省の認可を受けた医療機関で提供されています。採取、培養、投与という明確なプロセスを経て、個々の症状や体調に合わせたオーダーメイドの治療が行われます。
幹細胞治療を検討される際は、信頼できる医療機関を選び、医師との十分なカウンセリングを通じて、期待できる効果やリスク、費用などを理解することが重要です。また、生活習慣の改善と組み合わせることで、より良い効果が期待できます。
大阪・心斎橋の再生医療クリニック「CELL GRAND CLINIC」は、再生医療等安全性確保法に基づき、厚生労働省へ第二種・三種の再生医療等提供計画を届出し、特定認定再生医療等委員会の審査を経たうえで治療を提供する医療機関です(計画番号:PB5240089ほか/PC5250007ほか)。
当院では幹細胞治療を中心に、PRP・エクソソーム(幹細胞培養上清液)・線維芽細胞・NK細胞治療など幅広い再生医療に対応し、症状・既往歴・生活背景をふまえた個別の治療プランをご提案します。幹細胞再生治療では、投与日に合わせた培養と品質管理(生存率・表面抗原の確認等)を重視し、細胞品質の「見える化」に取り組んでいます。
治療の適応、期待できる効果と限界、リスク、費用はカウンセリングで丁寧にご説明します。詳しくはCELL GRAND CLINIC公式サイトをご覧ください。
※本コラムは一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を代替するものではありません。治療の適応や内容は、診察・検査結果等を踏まえて医師が判断します。