TEL.06-6212-5960

対応時間:10:00-19:00

MENU
MENU
MENU
COLUMN
2025.11.23
コラム

多系統萎縮症(MSA)の幹細胞治療|自己脂肪由来幹細胞による最新の再生医療

1. 多系統萎縮症(MSA)とは?症状と現在の治療の限界

MSAという難病を知る

多系統萎縮症(Multiple System Atrophy: MSA)は、パーキンソン病に似た症状を示す進行性の神経変性疾患です。日本では約1万人の患者様が闘病されており、指定難病として認定されています。
MSAの主な症状は以下の3つのカテゴリーに分けられます。

運動機能障害

  • 手足の震え(振戦)
  • 動作の緩慢化
  • 筋肉のこわばり
  • 歩行困難

小脳失調症状

  • ふらつき
  • 言語障害
  • 嚥下困難

自律神経障害

  • 起立性低血圧
  • 排尿障害
  • 体温調節異常

現在の治療法の限界

残念ながら、MSAの根本的な治療法は確立されていません。現在の標準治療は、症状を一時的に和らげる対症療法が中心です。発症後の平均余命は約7〜10年とされており、患者様とご家族にとって大きな負担となっています。
このような背景から、新たな治療選択肢として再生医療、特に幹細胞治療への期待が高まっています。

2. なぜ幹細胞治療が注目されているのか

再生医療がもたらす可能性

幹細胞治療は、従来の薬物療法とは全く異なるアプローチです。損傷を受けた神経細胞を保護し、機能回復を促すことで、病気の進行を遅らせる可能性があります。

幹細胞治療の3つの優位性

  • 根本的アプローチ:症状を抑えるだけでなく、病気の進行そのものに働きかける
  • 自然治癒力の活用:体が本来持つ修復機能を最大限に引き出す
  • 個別化医療:患者様ご自身の細胞を使用するため、拒絶反応のリスクが最小限

世界各国で臨床研究が進められており、メイヨー・クリニックなど世界的に著名な医療機関でも積極的に研究が行われています。

3. 自己脂肪由来幹細胞(ADSC)の特徴とメリット

ADSCとは何か

自己脂肪由来幹細胞(Adipose-Derived Stem Cells: ADSC)は、患者様ご自身の脂肪組織から採取・培養される幹細胞です。

ADSCの5つの特長

  • 採取が簡単:腹部から少量の脂肪を吸引するだけ(局所麻酔で15分程度)
  • 豊富な細胞数:骨髄由来よりも多くの幹細胞を確保可能
  • 高い安全性:自己細胞のため拒絶反応なし
  • 多分化能:神経、血管、軟骨など様々な細胞に分化可能
  • 倫理的問題なし:ES細胞のような倫理的懸念がない

骨髄由来幹細胞との比較

従来は骨髄由来の幹細胞が主流でしたが、ADSCには以下の優位性があります。

  • 身体への負担が少ない(骨髄穿刺は痛みを伴う)
  • より多くの細胞を採取可能(治療に必要な2億個の細胞を確保しやすい)
  • 繰り返し採取が可能

4. 幹細胞治療のメカニズム:3つの作用機序

どのように効果を発揮するのか

幹細胞治療がMSAに効果を示すメカニズムは、主に以下の3つです。

1. 神経保護作用

幹細胞は、GDNF(グリア細胞由来神経栄養因子)やNGF(神経成長因子)などの神経栄養因子を分泌し、損傷を受けた神経細胞を保護します。これにより、神経細胞の死滅を防ぎ、機能を維持します。

2. 抗炎症作用

MSAでは慢性的な炎症が神経変性を加速させますが、幹細胞は強力な抗炎症作用を持ち、炎症性サイトカインの産生を抑制し、抗炎症性サイトカインの産生を促進します。

3. パラクライン効果

幹細胞は様々な成長因子やサイトカインを分泌し、周囲の細胞に働きかけます。これにより、血管新生の促進、ミトコンドリア機能の改善、細胞死の抑制などが起こります。

5. 国内外の臨床研究で示された効果

エビデンスに基づく治療効果

世界各国で行われた臨床研究により、幹細胞治療の有効性が徐々に明らかになってきています。

主要な研究成果

韓国・ソウル大学の研究(2008年、2012年)
  • 骨髄由来MSCを使用したランダム化比較試験
  • UMSARS(統一多系統萎縮症評価尺度)スコアの悪化速度が有意に低下
  • 1年間の観察で病状進行が通常より遅いことを確認
米国・メイヨークリニックの研究(2019年)
  • 24名の早期MSA患者に骨髄由来MSCを髄腔内投与
  • 用量依存的に疾患進行が抑制
  • 重篤な副作用なし

期待される効果

  • 症状進行の遅延(特に運動機能)
  • 生活の質(QOL)の維持・向上
  • 日常生活動作の改善

ただし、効果には個人差があり、すべての患者様に同じ効果が得られるわけではないことをご理解ください。

6. 治療の安全性と副作用について

安全性データの蓄積

幹細胞治療の安全性は、多くの臨床研究で確認されています。

報告されている副作用(頻度の高い順)

  • 軽度の発熱(24-48時間以内に自然軽快)- 約20%
  • 注射部位の軽い痛み – 約15%
  • 一時的な頭痛 – 約10%
  • 軽度の倦怠感 – 約5%

重篤な副作用について

  • 腫瘍化:現在までの報告なし
  • 重篤な感染症:適切な無菌管理下では極めて稀
  • アレルギー反応:自己細胞のため理論上起こらない

15年間にわたる幹細胞治療のメタ解析(2021年)では、MSC投与による重篤な合併症の有意な増加は認められませんでした。

7. CELL GRAND CLINICでの治療の流れ

当院の治療プロトコル

CELL GRAND CLINICでは、厚生労働省の認可を受けた再生医療を提供しています。

治療の流れ(全6ステップ)

STEP 1:初診・カウンセリング(約60分)
  • 症状の詳細な評価
  • 治療の適応判断
  • 詳細な説明とインフォームドコンセント
STEP 2:脂肪採取(約30分)
  • 腹部から約10mlの脂肪を採取
  • 局所麻酔使用、日帰り可能
STEP 3:細胞培養(5-7週間)
  • 専門施設で幹細胞を培養
  • 最大2億個まで増殖
STEP 4:点滴投与(1回約90分)
  • 静脈内に幹細胞を投与
  • 外来での治療が可能
STEP 5:治療サイクル
  • 2ヶ月間隔で3-6回投与
  • 個々の症状に応じて調整
STEP 6:経過観察
  • 定期的な評価と副作用チェック
  • 長期フォローアップ

費用について

再生医療は現在、保険適用外の自由診療となります。詳細な費用については、個別にご相談させていただいております。分割払いなどのお支払い方法もご用意しています。

8. よくあるご質問(FAQ)

Q1:治療の効果はいつ頃から実感できますか?
A:個人差がありますが、早い方では2-3回目の投与後から変化を感じる方もいらっしゃいます。一般的には3-6ヶ月程度で評価を行います。

Q2:どんな患者様が治療を受けられますか?
A:早期から中期のMSA患者様が対象となります。重度の合併症がある場合は、個別に判断させていただきます。

Q3:入院は必要ですか?
A:基本的に外来での治療が可能です。脂肪採取、点滴投与ともに日帰りで行えます。

Q4:他の治療と併用できますか?
A:現在受けている薬物療法やリハビリテーションと併用可能です。むしろ併用により相乗効果が期待できます。

Q5:治療を中断することはできますか?
A:患者様のご希望により、いつでも中断可能です。その際の返金規定については事前にご説明いたします。

Q6:MSAの進行速度が速い人ほど幹細胞治療の効果は出にくいですか?
A:急速進行例では神経細胞の損失が大きく、治療効果が限定される傾向があります。早期介入が進行性疾患では重要です。

Q7:髄腔内投与(脊髄注射)と静脈投与はどちらがMSAに適していますか?
A:研究では髄腔内投与(脳脊髄液経由)が神経系への到達性で優位とされます。ただし侵襲性が高く、静脈投与を安全性重視で選択するケースもあります。

Q8:MRIで脳萎縮が進んでいても治療効果が期待できますか?
A:脳萎縮が高度な場合は改善は難しいものの、残存機能の維持や進行速度の低下を狙うことは可能です。画像所見よりも症状の推移で判断します。

Q9:MSA患者は他の神経難病(PD・ALS等)より幹細胞治療の副作用が出やすいですか?
A:MSAだから特別に副作用が増えるという報告はありません。ただし起立性低血圧・呼吸機能低下があるため、投与中の血圧・呼吸の管理が重要です。

Q10:治療効果を最大化するために併用した方が良いものはありますか?
A:リハビリ(歩行訓練・バランス訓練)、姿勢管理、嚥下リハ、睡眠評価、自律神経管理(血圧対策)、栄養療法との併用で効果が高まりやすいと考えられています。

9. まとめ:新たな希望への第一歩

多系統萎縮症に対する自己脂肪由来幹細胞治療は、従来の治療法では得られなかった「病気の進行を遅らせる」可能性を持つ画期的な治療法です。
完全な治癒を約束するものではありませんが、多くの患者様にとって新たな希望となることは間違いありません。CELL GRAND CLINICでは、最新の医学的知見に基づき、安全性を最優先に治療を提供しています。
「諦めたくない」「少しでも可能性があるなら試したい」そんな患者様の思いに寄り添い、最善の医療を提供することをお約束します。

参考文献(バンクーバースタイル)
1. Mayo Clinic. Multiple system atrophy – Symptoms and causes. Mayo Clinic; 2024. Available from: https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/multiple-system-atrophy/symptoms-causes/syc-20356153
2. Yu H, Chen L, Zhang S, He J, Fan D. Treatment of multiple system atrophy – the past, present and future. Am J Clin Exp Immunol. 2018;7(5):88-94.
3. Maldonado VV, Patel NH, Smith EE, Barnes CL, Gustafson MP, Rao RR, et al. Clinical utility of mesenchymal stem/stromal cells in regenerative medicine and cellular therapy. J Biol Eng. 2023;17(1):44.
4. Stankovic I, Quinn N, Vignatelli L, Antonini A, Berg D, Coon E, et al. An update on multiple system atrophy. Curr Opin Neurol. 2024;37(4):400-408.
5. Vij R, Gonzalez AV, Tanner A, Markelova N, Nair S, Cao C. Long-term, repeated doses of intravenous autologous mesenchymal stem cells for Parkinson’s disease: A case report. Front Neurol. 2023;14:1257080.
6. Lee PH, Lee JE, Kim HS, Song SK, Lee HS, Nam HS, et al. Autologous mesenchymal stem cell therapy delays the progression of neurological deficits in patients with multiple system atrophy. Clin Pharmacol Ther. 2008;83(5):723-730.
7. Lee PH, Kim JW, Bang OY, Ahn YH, Joo IS, Huh K. A randomized trial of mesenchymal stem cells in multiple system atrophy. Ann Neurol. 2012;72(1):32-40.
8. Singer W, Dietz AB, Zeller RS, Gehrking TL, Schmelzer JD, Schmeichel AM, et al. Intrathecal administration of autologous mesenchymal stem cells in multiple system atrophy. Neurology. 2019;93(1):e77-e87.
9. Ra JC, Shin IS, Kim SH, Kang SK, Kang BC, Lee HY, et al. Safety of intravenous infusion of human adipose tissue-derived mesenchymal stem cells in animals and humans. Stem Cells Dev. 2011;20(8):1297-1308.
10. Wang S, Qu X, Zhao RC. The safety of MSC therapy over the past 15 years: a meta-analysis. Stem Cell Res Ther. 2021;12(1):545.

                           

執筆者

若林雄一

若林 雄一

セルグランクリニック 院長

医学博士
アメリカ再生医療学会専門医
抗加齢学会専門医
放射線診断専門医
核医学専門医

【略歴】                                        
アメリカ再生医療学会認定専門医資格を有し、神戸大学病院やアメリカ国立衛生研究所(NIH)で培った経験を基に、患者様一人ひとりのニーズに応じたオーダーメイド医療を提供しています。